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「だーかーら、その辺はいかに有耶無耶にして、敦ちゃんを雰囲気で押し流して気付いたらやっちゃったという方法を聞きたいのに!」
ものすごく難度の高い相談かつ酷い内容だった。
(最悪な相談だ……)
この言いっぷりに、もはや照れ隠しじゃない気もしてきた。
知己は目の前が暗くなる思いだった。
「ふんすっ!」
章が怒りに任せて、テーブルをダンっと強く手をついた。
その衝撃で、カフェオレの入った大き目マグカップと章にも付けられていたサービスの豆菓子が揺れた。
「お前は豆菓子、喰わんのか?」
「はあ? 食べるよ! 食べますよ! せっかくサービスで付けてもらったんだから! お店のご厚意はちゃんと受け取るよ!」
売り言葉に買い言葉的な流れで章が言うと、豆菓子に手をかけた。
「何の役にも立たないポンコツの先生には、1個だってあげないんだから、ね!」
(別に欲しいと言ったわけではないが……)
ふんっ、ふんっと鼻息荒くても、淀みなく章は喋り続けた。
「告白なんかしない方向で! でも、そんな雰囲気に持ち込んで! 4月1日以降に絶対にヤるんだー!」
(とんでもない宣言だな)
知己が呆れて聞いていると
「これで文句はないでしょー!?」
勢い余った章は、力の限りに豆菓子の袋をバリーンと引き裂いた。
ざららー……!
「あ……、う……」
音を立てて、豆菓子は飛び散る。
てんてんと転がる豆菓子を見つめていると
(あれ?)
なぜか章が真っ赤になっていた。
「……」
「章……お前……」
「言うなー!」
床を見つめていた章が、腕だけを上げて知己を制した。
「僕が本当はめっちゃ動揺しているとか、死んでも言うなー!」
(……今、自爆したぞ……)
多分、今、それを言ったら、章が拾っている豆菓子を節分の鬼やらいのごとく投げつけてきそうな気がした。
ようやく拾い終わった豆菓子を、やっぱりペーパーで包みながら章は
「……僕のこと馬鹿だなって思ってるだろ?」
と、ぼそりと聞いた。
「思ってねーよ」
知己は即答したが、その言葉に被せる速さで
「いーや。思ってるね!」
章が否定した。
(あ、これ……。何を言っても通じないダメなパターンだ)
と知己は悟った。
「大学だって法学部なんか行って……って思ってる! 将来敦ちゃんが困らないように、ずっと一緒に居られるように顧問弁護士とか美味しいポジション狙ってるって思っている!」
自爆に次ぐ自爆だ。
(そんなこと、考えてたのか……)
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