自由登校なのに 1

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自由登校なのに 1

 八旗高校3年生の三学期は、自由登校である。  故に、既に進路の決まっているものはよほどの用事がない限り、学校には来ない。だから4年制大学を主な進路とする3組の生徒だけが10名程度、家では勉強する気になれないから……と自習をしに来ている程度だった。  もっとも須々木俊也だけは、違う理由もあって登校していたが。  共通試験翌日、朝のHRで出席確認に来た担任の平野知己に、俊也は 「イチゴパンツ、あざーっす!」  と挨拶した。  残念ながら意味が分かった知己は 「その挨拶、やめろ」  と、すかさず突っ込んだ。 「え? あれ、なんでバレてんの?」  あからさまにキョドる俊也だが、すこぶるご機嫌だ。 「試験、うまく行ったのか?」  分かりやすい反応に 「多分。俺の自己最高記録だと思う」 「……すげえな」  思わず言葉が口を突いて出た。 「模試で200点満点中3点だった俺の過去最高ってたかがしれていると思うけど、やっぱ嬉しいよな」  と俊也がにこやかに言う。  春先の模試で200点満点の数学が3点だった。それを100点満点計算で半分にされて、1.5点。お情けで、切り上げ2点にされたものの、もちろんどの大学でも合格ランクはEだったあの俊也が……である。 「それもこれも、ライオさんと章のおかげだ」 「ん? 章?」  俊也にろくでもない勉強法を教えたと聞いたから、ここでライオさん=将之が出たのは分かる。 (だけど、どうして章の名前が出る?)  折り悪く、始業のチャイムが鳴った。 「お! んじゃ、またな。先生」  俊也を始め、10名ほどの登校してきた生徒達が各々の席についたので、 (なんか怪しい……)  とは思いつつ、意味が分からないままも知己は出席を取った。  たかが10名だ。あっと言う間に出席も取り終わる。  知己は、 「じゃあ、自習頑張れよ。時々、見に来るからな」  と言うと、職員室に戻ろうとした。  ぴこん♪  聞き覚えのある着信音。 「誰だ? 携帯はマナーモードにしとけって、いつも言ってるだろう」  あまりうるさくは言いたくないが、教師としての立場上、聞こえたものは仕方ない。お義理で知己は咎めた。 「悪ぃ、俺だ! すぐマナーモードにするから、許せ」  俊也が素直に手を挙げて申告する。  軽く反省しているようだから、それ以上言うこともない。  携帯を操作していた俊也が 「あ、敦からラインだ」  と意外そうに呟いた。
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