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章も敦も進路は決まっている。
当然、登校して来ない。
しかも敦に至っては、
「ただでさえこんな所来たくないのに、来なくていいって言うんなら来るはずないだろ」
とまで言っていた。
俊也が言うには
「あいつら、家が隣同士だからな。毎日、どっちかの部屋に入りびたっているみたいだぜ」
だった。
(……よく考えたら、章の奴。少なくともこの二週間は、家の人はみんな留守の状況で敦と二人きりじゃねえか。
なんで、俺にあんな相談してきたんだろ?)
「先生。敦から質問」
そして、今日は敦からの質問だ。
一体、何だろう。
「なんだ?」
「『章、学校に来てないか?』だって」
「知らん」
「今日、家に行っても居ないんだって。俺も会ってないしな。
じゃあ、あいつ、どこに行ったんだろ?」
「……」
昨日のこともあって、なんだか気持ちが落ち着かない。
「一応、学校の中を探してみるか」
と知己が小さく呟くと、
「俺も」
妙に俊也が嬉しそうに言う。
「学校に居るか居ないかも分からないのに、受験前の貴重な時間を使うな。俊也は勉強しろ」
「何言ってんだ? 俺にとっちゃ先生と一緒に過ごす時間が一番貴重! しかも二人っきりで、美味しいことこの上ない。それに章は親友だ。親友が居なくなって、心配に決まっているだろ?」
「お前……」
全てが本音全開の俊也だったが、
(「それに」以降の後半の部分を先に聞きたかった……)
美しい友情っぽい言葉が、言う順番を間違えている。
欲望の先行にすべてが台無しになっていた。
「絶対についてくるなよ!」
知己が釘をさす。
「ダチョウクラブだな!?」
「違う!」
「それでも、ついて行ったら?」
このタイミングで、俊也が間抜けな質問をする。
(早く探しに行きたいのに!)
焦る知己には、
「……怒る!」
しか思いつかなかった。
「お……?」
なんとも幼稚な対応だったが、俊也には効果があったようだ。
「……お、おとなしくここで待ってる」
さっきの勢いが消え、しおしおと引き下がった。
(……今までに居なかったタイプだ)
将之も門脇も、なんだったら章も敦も「待て」と言って素直に待つタイプではない。
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