242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
惰性で「うんうん」と首を縦に振る俊也以外は、今度は誰も頷く者が居なかった。
「え?」
ぎょっとして敦は狼狽え、俊也も「あれ?」と間の抜けた声でキョドっている。
「……授業、面白かったからじゃない?」
窓側から声がする。
「章?!」
瞬間、敦の視線が鋭く捕える。
章はニコニコと笑いながら
「毎度毎度、くだらないヒント出したり大喜利みたいな授業だったり」
(俺は決して大喜利をしたい訳では……)
憂鬱な面持ちだった知己が、顔を上げた。
「注射の消毒実験だったり」
(注射の消毒? もしかしてアルコール抽出実験か?)
沸点の授業だったのだが、なんか違う所にスポット当たっている気がする。
フォローしているのか貶しているのか。ツッコミどころ満載の章の言葉だったが、まあいいかと知己は、二人の会話の行く末を見守ることにした。
「ねえ、敦ちゃん。話、長くなりそうだし、後は放課後ってことでどうかな? みんなも困っているみたいだし」
「はあ? 誰も困ってなんかないし」
章に指摘され、敦が怪訝な顔で三度周りをぐるりと見渡す。
すると生徒たちは、亀が首をすくめるみたいに教科書で顔を隠したり慌ててそっぽを向いたりと、一様に敦に目を合わせなかった。
「……っ!」
これまでと違ったよそよそしい雰囲気に、敦があからさまに不快だと顔を歪めた。
「なんだよ、お前らまで。あいつに騙されんなよ」
「みんなは騙されてないよ。先生が変わってくれたんだから、みんなも少しだけ態度を変えただけ」
「ふざけんな! こいつだってあいつらと一緒だ! 都合悪くなるとすぐにルールを変えやがって! さっき、見たろ? 怒鳴って権力でねじ伏せようとして」
「敦っちやん!」
章が制した。
水を打ったように静まり返る。誰もが固唾をのんで、二人の動向を伺っていた。
「……それ以上は込み入った話になりそうだから、また、後で」
最初のコメントを投稿しよう!