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「その代わり、見つけたらすぐに教えてくれよ」
多分、章のことは本当に心配なのだろう。
「分かった」
返事をして、知己はすぐに探しに行こうとした。
(いや、待てよ)
教室のドアに手をかけた所で、ピタリと知己は止まった。
嫌な予感が湧く。
(殊勝なふりして、こいつらが教室抜け出すなんてチョイチョイあったじゃねえか?)
「そんなこと言って、俺を騙す気だな?」
「んなこと、しねえ! 早く、章を探してくれってば」
「本当か?」
散々騙されて二年間近くを過ごした知己は、簡単に納得できなかった。
「えぇい、疑り深いな! この俺の目を見ろ。これが嘘を吐いているヤツの目か?」
俊也は真実を語る者のテンプレート化したセリフを言っているが、なぜか目をぎゅうっと閉じている。
「……なぜ、目を閉じてんだ?」
「せ、……先生のちょいおこな可愛い顔を、こんな間近で見れない。俺が」
頬染めて言われて、知己は嫌な気持ちしかしない。
これがいつもの理科室だったら、間違いなくひっぱたいていただろう。
二人の居た場所が、まだ3年3組の教室だったということ、他に生徒が9名居たことが幸いし、知己は理性を取り戻した。
反射で振り上げた右手を、知己は断腸の思いでなんとか下ろした。
(もう、いい!)
俊也のことは放っておこう。
今、優先すべきは章のことだ。
「こっそり追いかけて来たら、めちゃくちゃ怒るからな」
念のため、更に幼稚な脅しを一つ追加し、「え……? いや、まじ? それは困る、な」と怯む俊也をおいて、知己は教室を後にした。
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