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「章、お前、携帯を持ってきているか?」
「うん。もちろん」
と、章は制服のポケットから携帯を取り出した。
「あ……! ふふっ」
画面を見て、何かに気付いた章は嬉しそうに微笑む。
なんだろうと思って見ていると
「敦ちゃんから、いーっぱい連絡入っている」
と携帯の画面を章は自慢げに見せた。
(あほらし……。素直に敦の前でもそんな所を見せたらいいのに)
と、知己は思ったが口にはしなかった。
「そりゃ、そうだろ。なんで敦に言わずに来たんだ? 心配してたみたいだぞ」
「だって、敦ちゃんに知られちゃまずい話をしに来たんだもん。言ったら意味がない」
それで敦に連絡をいっぱい入れてもらって自己満足に浸るのもどうなんだろうな……と思う。
「で? 僕の携帯で何をすればいいの?」
改めて章が尋ねる。
「とりあえず、俊也にメールを送れ。章を見つけたら連絡すると約束したんだ。あいつも心配していた」
「やだ」
章が即答する。
「なぜ?」
「だってメール入れたら、ここに俊ちゃんが来ちゃうだろ? 俊ちゃんにも秘密にしたい話だから、メールは送らない」
「そこは……」
確かにそうかもしれないが。
「多分、休み時間になるまではあいつも来ないと思う。今は授業中の筈だし、自由登校の3年生と言えど、校舎内をうろつくわけにはいかないだろ?」
「自習なのに?」
「授業時間に教室抜け出したら、俺が怒ると書いておけ」
「そんなんで俊ちゃん、言う事聞くのかなぁ?」
「いいから、送れ。話は、それからだ」
「はいはい」
思いっきり「メンドクサイ」と顔に書いてあるような表情の章は、珍しく知己に押し切られた形で俊也にメールを打った。
高速の指裁きでメールを打った後に、章は
「じゃ、送信ーっと。これでいい? 話を聞いてもらえる?」
と顔を上げた。
「話って?」
「この間の続きだよ」
敦にも俊也にも聞かれたくない話となれば、そうなるだろう。
正直、知己はうんざりだった。
「一昨日はキレちゃって、ごめんね」
へらへらと章は笑ってみせたが、目が笑ってない。
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