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「『俺よりも仲いい友達、絶対に作んなよ』の辺りなんか、僕の指をへし折る気じゃないかってくらい力いっぱい握られて……僕は、体の奥底から沸き起こる熱いものを押さえるのに必死だったよ」
(章……)
教え子のピュアな気持ちに触れ、知己は親心に似たものが湧いた。鼻の奥がツンと痛くなって、思わず口元と鼻を押さえた。章の話を聞いて、感極まって猛烈に今、涙が出そうになっている。
「俊ちゃんも、よく授業中に先生の声を聞いてるだけでそうなるんだって。『そんな時は素数を数えるといいんだ』って教えてくれたんだ」
(俊也ーーーーー!)
おかげで、知己の涙は引っ込んだ。
おそらくだが、章の言う熱いものと俊也のこみ上げる熱いものは、違うものだ。発生する体の部位も違うと思われた。
「章。悪いことは言わん。お前、告白した方がいい」
色々な思いが錯綜し、ようやく整理できた知己が提案したが
「それ、悪いことしか言ってない」
章は一刀両断にしていた。
「あれだけ『友達』連呼されて、『友達なんかじゃ嫌だ』なんて言える? 告白なんかしたら、『友達だって言ってんだろ? きもいな、章!』で終わるよ。敦ちゃんに変に意識されて、さけられちゃう。『毎晩メール送れ』とまで言われてすごく嬉しかったのに、着拒否されちゃう! そんなの絶対に嫌だよ」
「え……? この流れで、どうしてそう思う?」
どう考えても立直一発自摸(※)の流れだと思うが
「この流れだから、そう思うんでしょ?」
吐き捨てるように、章が言った。
不安要素があってはいけないのだ。
章は決して聞き入れようとしない。
(俊也には、あんなに告白させようとしたくせに)
どうせ可能性がないのならさっさと断ち切ってやれと。絶対にいい返事もらえないのを分かってても玉砕を選ばせたくせに。
こと自分のことに至っては臆病だ。
(※)立直一発自摸・・・立直で一発で自摸と、これだけで役が3つも揃うので、私はどんなしょぼい役でもできたら即リーします。つまり、かなり上がりが望めそうな状態です。
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