240人が本棚に入れています
本棚に追加
(いや、違うな)
ああは言っているが、俊也の為を思ってのことだった。
ラノという……言ってみれば架空の人物への不毛な恋に悩むより、すっぱり断ち切って、新しい出会いへ目を向けさせるためのことだ。
(……多少、面白がっていた気がしないでもないが)
よく考えれば昨年の文化祭だって、そうだ。
敦の不登校をなんとかしたくて、ミスコンの勝負を持ちかけた。知己を担ぎ出して、最後は姑息な手段であったが優勝を攫わせ、敦の約束は守る律儀な性格を熟知して学校に来させることに成功した。結果、成績は上がるし、2年3年で出席日数も無事取り戻し学校推薦を得、早々に進路を決めることができた。
終わり時を見失っていた教師への報復ゲームだって、敦の為にこっそりとあれこれ仕掛けていた。
(あれ? もしかして、すべて計算尽くか?)
抜け目ない章のことだから、そんな気さえする。
面白半分の線も消せないが、章は自分のことよりも他人の為になら頑張れるのだろう。
(敦の傍に居たいから弁護士になりたいって言ってたけど……)
章なら、どんな人の為にも尽力できる弁護士になれる気がした。
「適材適所だな」
「何が?」
「いや、独り言」
だが、章の本当の姿が分かった気がした所で、話は平行線のままだ。
章に一歩を踏み出す勇気を、敦の「友達」連呼がへし折ったのなら、敦の言動で章を奮い立たせないといけない気がした。
知己がチラリと時計を見る。
後15分もしたら1時間目が終わり、俊也がここに駆け付けるだろう。
急がないと。
そう思うだけで、誰かが来そうな気がして知己は焦った。
最初のコメントを投稿しよう!