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今度は知己に向き直り、章は
「先生も授業を進めないといけないでしょ。これ以上、僕らの話に時間取る訳にはいかないですよねぇ?」
穏やかな口調と違い、鋭い眼光は否定を許さない。
(込み入った話……)
多分、敦にみんなの前で喋らせたくないのだなという章の考えを、さすがに知己も感づいた。
「あ、あぁ。そうだな」
理科室内は、戸惑いで少しざわついていたが知己は気にせずに
「じゃあ、授業再開……」
と、黒板に向かった。
その背後で、
「……っ!」
何か声が聞こえた気がした。
「……っ! ……章のぉっ、馬ぁ……鹿ぁー……っ!」
(え? 章? 俺じゃなく?)
知己は驚いて振り返り、章と敦を交互に見る。
章は相変わらずのほほんと敦を眺めているだけ。対照的に、敦は立ち尽くし、爪がめり込むほど拳を握りしめていた。
メガネのレンズに涙が溜まったのであろう。敦は分厚いメガネを机に投げ捨て、理科室中どころか廊下にまで響くような大声で
「なんなんだよ、章! ばーか! ばーか!」
今時小学生でも言わないような、聞くに堪えない幼稚な悪口を連呼している。
「……(梅木敦って)」
驚くべきは敦の容貌だ。
(こんな顔だったのか……)
涙で目が潤んでいたのもあるだろうが、それを差し引いても煌く瞳は長いまつ毛に縁どられ、やや厚めの唇は不満げに尖っている。柳眉を顰め、章を憎らし気に睨むが、なんとも愛らしい。
そこに居たのは、壮絶なる美少年だった。
言っていることと顔のギャップがあり過ぎて、見とれるかのように知己は呆然と眺めていたが、敦の方は収まりがつかない。
「もう、章なんか知らない!」
陳腐な捨てセリフと共に、理科室を飛び出してしまった。
その華奢な後ろ姿に
「お、おい! 梅木……!」
慌てて知己は追いかけようと声をかけた。
【挿絵を上げてみました。】
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=324
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