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(俊也め……!)
おおかた、章がメールを送った直後、自習中にも関わらず即座に敦に知らせたのだろう。敦がここに到着する時刻的に、そんな感じだ。
(……いや)
敦は「これ以上黙って見ていられるか」と言っていた。
(ということは、少し前にここに来て、俺達の話を聞いていたんだな)
と知己は思った。
どうやら章も、それに気付いたらしい。
「……もしかして、敦ちゃん……話聞いてた?」
少し気まずそうに尋ねると、敦は真っ赤な顔してコクンと頷いた。
「あちゃー、……シクった。俊ちゃんにメール送ったら、そうなるよね。なんで気付かなかったんだろ、僕」
章は心の中の声が駄々洩れ状態だった。
「いや、しくじってなんかないぞ、章。むしろ、このまま流れに乗って言ってしまえ」
章の隣にいる知己が、乗りかけた船とばかりにけしかけた。
敦の前だと一切そんな気配を出さないし出さない章が、知己の前で散々本音を語ったのだ。
あれを聞かれていれば、あと一押し。
なんなら(もしかして告白も要らない状況になったのでは?)とさえ思える。
「そっか。前向きにとらえたら、言う手間が省けたよね」
章も心もち笑顔が浮かんでいる。
「いや、こういうことはきちんと自分の口から言え」
「そういうもの?」
「こういう場合はグレーなものを曖昧なままにしちゃダメだ。ちゃんと言葉にして、白黒はっきりさせないと」
「黒になったら嫌だな」
「99%白なんだから、この期に及んで尻込みするなよ。ほら」
と言うと知己は物理的に章の背を押した。
「……何をごちゃごちゃと……お前ら、仲良しか!?」
理科室入口から中に入ろうとしない複雑な表情の喚く敦に、章が
「あの、敦ちゃん……」
と努めて平静装って話しかけた。
奇妙な緊張感があった。
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