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「聞かないっ!」
そう言うと敦は自分の耳を押さえ「聞かない」の定番のスタイルをとった。
「一体、俺に何の話をする気だ?! 絶対にお前の話なんか聞かないからな!」
(今まで立ち聞きしていて、それかよ……)
と知己が思っていると、それが顔に出ていたのだろう。章が知己に「敦ちゃんだもの」と詩的にさらりと答えた。
「ずぇぇったいに聞かないぞぉ!」
それにしても、照れているにしては異常なほど頑な態度だ。
(……何かおかしい)
どちらかというと直情型で分かりやすい敦なのに、いつもとは違う感情の読めなさっぷり。
取り付く島もなく、知己と章がたたずんでいると
「何が、『僕ら、両想いかな?』だ。リア充爆発しろー!」
敦の方が先に爆発したようだ。
「「は?」」
突然の発言に、知己も章も同時に声を上げた。
「何が、『一歩を踏み出せ』だ。何が『物理的に踏み出すな』だ。自分から誘っておきながら何言ってんだ。人が来ないと思って、こんな所でいちゃついてんじゃねえよ!
そんでもって何が……、だ、だ……」
真っ赤になって言いよどむ敦に、章が
「だ、だ……? ウルトラマンの怪獣かな?」
と思いつくままにぶっこんでしまった。
「ヴァーカ!」
章の脈絡ない推察を皮切りに、敦がエンジントラブルが直った車のようにまた罵り始めた。
「何が、『大好き』だ!? ヴァーカ! ヴァーカ! ヴァーカ!」
なんとも既視感ある言葉を連呼する。
察するに、この『ヴァーカ!』という変なネィティブ感ある発音は、章と敦の間での流行の言い方なのだと思われた。
「……あの、敦ちゃん?」
章が爆発続ける敦の真意を問いたくて、とりあえず止めてみたがそんなことで敦は止まらなかった。
「以前にも言ったはずだ。俺はお前の好きな奴は大嫌いだと」
近眼の分厚いレンズの奥、美少女の瞳で射殺す勢いで敦は知己を睨んだ。
「……えーっと?」
未だに事態を把握しきれず戸惑う章に、
(なぜ、これで敦は俺を好きだと思うんだろうな。章は……)
と知己は思った。
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