自由登校なのに 3

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「お前、俺のことを友達としか思えないって言ったくせに」  思わず敦が口を滑らすと (章?! なぜ、そんなことを?!)  知己がぐるんと、いきおいよく章の方を向いた。  知己に目で問われた気分になった章が、 「ん? そんなこと言ったかな?」  と言う。身に覚えは、ないようだ。 「しらばっくれんな! 言ったぞ! 『僕らはずっ友(ずっと友達)だよー』って」 「あ! あの時か」  敦に言われて、やっと思い出したようだ。 「言ったのか?」  知己に確認されて 「うん。コタツで指へし折られそうになりながら『俺より仲いい友達作るなよ』と言われて、『ずっ友(ずっと友達)』って返事した」  素直に章が答えると 「ぬわー! うぎゃー! ぬわに恥ずかしいことをペラペラと喋ってんだぁ?!」  再び、敦が大爆発を起こして叫んだ。 (敦がこれほどまでに爆発する理由は、会話の流れでこいつも『友達』宣言しちゃってた所為か)  これでは敦が誤解するのも、無理はない。 「俺だってな、ずーっと前から章がその悪徳教師のことを好きだとは知ってた。この時期に俺に黙ってわざわざ学校行くなんて、おかしいとは思ったんだ。  どうせ、卒業した後のことでも相談に来たんだろ? 違うか?」 「うーん、当たらずとも遠からじ」  いつもの調子でいちいちコメントを挟むが、 (今は黙って聞いた方がいいのでは……)  敦の地雷をことごとく踏む章の発言に、知己は心配しかない。 「そんでもって、両想いだと? ふざけんな! 確かにそいつの女装はやべえくらい綺麗で俊也もメロメロだが、俺の方が百万倍綺麗だぞ」 「いや、女装の先生に惚れたわけじゃないし」 (なぜ「女装の」を付ける?!)  その言い方では、女装していない知己に惚れたと受け取られかねない。 (言い方、大失敗だろ?)  知己の予想通りに 「そんなヤツと付き合うなんて、俺はずぇったい(絶対)に許さないからなー!」  恋人連れてきた娘の父親の定型文を、敦はあらん限りの声で叫んでいた。  ひとしきり肩で息をしていた敦が、くるりと廊下の方を向く。 「あ、待ってよ!」  慌てて章が言うと 「うるさい! 絶対についてくんなよ!」  と敦は一蹴した。そして 「章のヴァーカ! ヴァーカ!」  やはり独特の発音の陳腐な捨てセリフで罵りながら、今来たばかりの廊下を不快感丸出しにドスドスと歩き出した。  ヴァーカの声がだんだん小さくなっていく。 「……」  理科室では章と知己がどうしたらいいのか分からずにたたずんでいると、やがて1時間目終了のチャイムが鳴った。
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