自由登校なのに 3

6/8
前へ
/778ページ
次へ
 章は何を考えているのか、敦を追いかけようともしない。  台風一過のような気分を味わいつつ、知己が章をちらりと見た。 「……もしかして、告白以前の問題になったのかな?」  この1時間に起こった浮き沈みの温度差に、風邪を引きそうだと章は思った。章なりにダメージを受けているようだ。それでも、なんとか事態を把握しようと努力はしている。 「何を呑気な。追いかけなくていいのか?」  知己が急かすと 「うーん。あの沸点に達した敦ちゃんが、僕の話を聞くかなぁ? 『ついてくるな』とも言ってたし。今、追いかけたら確実にだよ」 「追いかけない方が、火に油だと思うが」 「今夜、落ち着いたころに電話かメールするよ」 「お前……っ!」  問題の先送りに思えた。  そこに 「おぃーっす、章! やっと会えたな!」  今度は俊也がやってきた。 「さっき、廊下で敦とすれ違ったんだが……。なんだ? お前ら、ケンカでもしたのか? めっちゃだったぞ」  不思議そうに俊也が言う。 「俊ちゃん……。君は、いつもいつも余計なことしかしない」  章が忌々し気に答える。 (俊也の所為だけではないと思うが……) 「え? 俺、何かしたっけ?」  と、特に気にせず俊也は、章に向かって手を差し出した。 「それよりも、約束()のものをくれ」 「分かってるって。それもあって学校に来たんだから」  章は、自分の鞄に手を突っ込んだ。 「なんだ?」  と知己が訊く。 「僕はね、本当は俊ちゃんに誕生日プレゼントを渡しに来たの」 (俊也と会う約束があるから、敦を追いかけなかったのか?)  でも、(本当にそれでいいのか?)と知己が思っている横で 「はい、これ。ここで開けちゃダメだよ。家で見てね」  と愛らしいピンクの袋に入ったものを、章は俊也に手渡した。 「なんか思ってたよりも可愛いもんなんだな」  という俊也に 「通販で買ったから、僕の気持ちを込めての百均ラッピングだよ」  章は答えた。  封筒タイプの袋に入れて上部を折り曲げシールを貼っただけのやっつけ感漂う包み方に「これでいっかー」の章の雑な気持ちが見える。 「俊也。誕生日だったのか」 「ああ、1月15日だったんだ」 「この間、俊ちゃんにぴったりのものを見つけたんだ。でも、勉強に集中できないと困るから、試験が終わってからあげるねって約束したの」 「俺は、これを励みに頑張った」 (なるほど)  それで「ライオさんと章のおかげ」と言っていたのだな。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加