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身長差は大したことないが、俊敏な動きで俊也は翻弄する。その上、知己が掴みかかるとやたらと嬉しそうにして、まったく反省する気がないのが伝わってくる。やたらと俊也のにやけ顔が腹立つので、俊也の方は諦め知己は
「章ー!」
と持ってきた章の方に矛先を向けた。
「別にいいじゃない、AVくらい。俊ちゃんだって18歳になったんだし、僕も既に18歳だし、法的に何の問題があるの?」
しかし、章は全くと言っていいほど気にしない。
「大ありだ! 学校で渡すのが問題だと言ってんだろ?」
「でも、僕は風紀委員だよ」
「だから?」
「自分自身を取り締まったりしないからセーフ」
至極真面目な顔して両腕を水平に開き「セーフ」のポーズを取る。
「何なんだ、その勝手過ぎる理由はー!」
俊也も章も、会話にならないで、やたらと疲労感だけが増した。
「とにかく、用事は済んだのなら、さっさと敦を追いかけろ」
「えー。また、それ?」
めんどくさそうに言いながら、その実、章は尻込みをしていた。
すごろくでいうところの「ふりだしにもどる」どころか、すごろくを広げる前段階になってしまったのだ。焚きつけたやる気はすっかり意気消沈だ。
「今頃、駅のホームで電車を待っている筈だ。そろそろ頭も冷えているだろうし、もしかしたら一緒の電車に乗れるかもしれないだろ? ゆっくり話もできる告れるチャンスだろ。早く行け」
逆にすっかり親心に火が付いた知己が、珍しくも懸命に章の後押しをする。
「まだおこかもしれないじゃん」
ぐずぐずと煮え切らない章に、知己がキレた。
「もういいー! そんなに章が行かないっていうのなら俺が行くー!」
自分が行っても、敦に疎まれるだけだ。
でも、このままにはできずにキレた勢いで言ってしまった。
すると
「それだけは、ダメー!」
天邪鬼にも、突然章はガタンと立ち上がった。
「……びっくりした」
俊也が呟く中、知己が
(そっか。章は、敦が俺のことを好きだと思っているから、俺が敦を追っかけるのが嫌なんだ……)
禍を転じて福と為す……ではないが、誤解が転じて章を突き動かすエネルギーになったようだ。
ようやく重い腰を上げたかと思ったら、章は
「先生、一生恨むからねー!」
と酷い言葉を残して駅へと向かった。
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