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自由登校なのに 4
「あ。将之からメールだ」
時刻は20時を回った。
(今日は、遅いんだな……。仕事、立て込んでいるのかな?)
と思っていた矢先だ。
【今夜は急な仕事で帰れなくなりました。
職場近くのホテルに一泊しますので、
カップラーメンを食べてください。】
将之を待っていたので、夕飯は当然まだだった。
「カップラーメン限定かよ」
とはいえ、この時間。既に部屋着に着替えている。今更、外に食べに出るのも買いに行くのも面倒だ。
(癪だけど、将之の言う通りにしよう)
と湯を沸かし始めた。
湯が沸くまでの数分に、ふと
(……なんか、変だな)
と気付いた。
どんなに仕事が忙しくても、知己の待つ家に帰ってくる将之が帰ってこないなんて。
たまにあった。
台風などの災害時には急な対応や連絡があるから、現場待機……つまり家に帰らずに職場につめていることも。
(なにか大変な事件でもあったのかな?)
念のため、携帯でネットニュースを読んだが、それらしきものはなかった。
そうしているうちに、湯が沸いた。
カップ麺の内側の線まで湯を注ぎながら考えていると、またもや携帯が鳴った。
「……うわ、章だ……」
表示された文字を見て、タップするのを一瞬躊躇う。
きっと、あの後の報告だろう。
(嫌だけど、電話出なかったらもっと嫌な目に遭わされる……)
渋々と通話に切り替えた。
『おっそい! 3リンは、企業の恥と思え!(※)』
電話に出るなり、怒られた。
やはり(電話、出るんじゃなかった)と後悔したが、既に遅い。
「……企業じゃねえもん」
『三十路男が『もん』とか使うんじゃない!』
(だから電話出たくなかったのに……)
畳みかける章に、知己はそぉっと『通話終了』ボタンを押しかけたが、次の言葉で踏みとどまった。
『えーとね、何から話したものか悩んじゃうけど、結論から言うと敦ちゃんが居ないんだよねー』
「……は?」
あの後、追いかけたのでは?
「色々端折り過ぎだ。さっぱり分からん」
『だから、肝心の敦ちゃんが居ないの』
「早く追いかけないからだ」
『だって俊ちゃんにプレゼント渡したかったんだもん』
18歳男子高校生でも語尾に「もん」付けは、ギリアウトのような気がするが。
『というのは、言い訳で……』
珍しく章が素直に認めた。
『敦ちゃんを追いかけないで済む理由を探してた』
「……なんとなく、そんな気はしてた」
もちろん誕生日プレゼントを渡したいという当初の目的はあったものの、あの流れでは俊也を利用したようなものだ。
(※)3リンは企業の恥・・・「コール三回までに電話に出ないと、会社として恥ずかしい」ってことらしいです。社員教育で教えられましたが、令和の今はどうなんでしょう。ちなみに友人は「どちら様でしょうか?」を間違えて「何様でしょうか?」と言ってしまい、それ以来「電話に出んな」と言われ、因果関係あるかどうか知りませんが今は在宅勤務です。
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