243人が本棚に入れています
本棚に追加
『そんな気がする……ってことは、先生も経験がお有りで?』
どこか揶揄うような口調に
「うるさい。切るぞ」
と知己が言うと、『待って、切らないで』と章は慌てて続きを話した。
『あれから駅で敦ちゃんを探したけど居なくって。一本前の電車に乗れたか、それとも僕が駅に来るのが嫌でバスで帰ったのかな? とも思ったけど。なにせお隣さんだからね。帰って、すぐに敦ちゃんちに行ったんだよ。でも、居ないんだ。僕より早く帰れないって変じゃない?』
「どういうことだ?」
『ぶっちゃけ避けられている』
「居留守か?」
『それはない』
「なぜ?」
『梅木家の人たちは、お父さんもお母さんもお兄さんず(複数形)も僕のことをすごく信用してくれているから、ね。例え敦ちゃんが居留守使っても、僕が会いに行くと、もれなく敦ちゃんを差し出してくれる逆セコムシステムなんだ』
逆セコ〇?
(安全の反対という意味か?)
「それは恐ろしいシステムだな。章はどんな方法で敦の家族を誑かしているんだ?」
『幼稚園からの付き合いだもん。信頼もハンパないよ。それと敦ちゃんがふわっふわで信用ないだけ……でしょ?』
お隣の吹山章君はしっかり者で安心と、敦以上の信頼があるらしい。
例え敦が「会いたくない」と言っても、「章君が会いに来ているのに、何を言っているんだ」「章君に間違いがあるわけない」と差し出される図式らしい。
『だから、本当に敦ちゃんは家に帰ってないんだ』
「それって……」
もしや、大事になっているのでは……?
『連絡は有ったらしいから心配いらないって。敦ちゃんは、知り合いのお兄さんちに泊るって。家に戻ったら僕に差し出されるからね。そうならないように必死だよ』
「そんな理由で外泊OK? ゆるゆるだな」
『もちろん、相手は身元もちゃんとした人なんだと思うよ。梅木家は付き合いや仕事で外泊なんてよくあることだから、敦ちゃんに関してもそう。割とその辺は自由だからね。僕もよく泊りに行ったり、敦ちゃんも泊りに来てたりするし』
(敦、自棄になって家出ではなさそうだ)
と、知己はほっと息を吐いた。
『だから敦ちゃん居なくって、誤解もとけないし告白もできない状況でっす。オーバー?』
章は俊也の言い方を真似した。
「お前、ふざけているだろ?」
『バレた?』
ひとしきり笑うと章は
『とりま、明日も僕は学校行くから。敦ちゃんのことはそれから一緒に考えよう。じゃあ、また明日ー』
どっちが教師か分からない言葉を残して、通話を終えた。
最初のコメントを投稿しよう!