自由登校なのに 5

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自由登校なのに 5

 章との約束の時間に、知己は理科室に赴いた。 「待っていたぞ、悪徳教師」 「あれ……?」  一瞬、章が敦に見えるほど自分は疲れているのかと思って、目をしばたたせた。 「このまま来なかったらどうしようと思ってたところだ」  敦は、知己がよく居る教壇に上がって、床より一段高い所から理科室に来たばかりの知己を見下ろしていた。分厚いコートを着たまま腕を組んでふんぞり返っているが、唇が少し震えている。  理科室の室内温度計は、2℃を表示していた。 「お前居ないけど、もうエアコン付けちゃおっかなーっとも思ってたところだ」 「いや、付けろよ」  敦も知己の言いつけを守ってエアコンを付けずに待っていたらしい。 「妙なところで律儀なんだな、お前ら」  ぼそっと言いながら、知己はエアコンをONにした。 「章は……?」  理科室をぐるりと見渡したが、約束した当人の章は居ない。 「ここだよ」  不意に真後ろから、声がした。 「うわ、びっくりした」 「今、来たとこ」  そう言うと今度は知己を睨み付けて、声を低くした。 「ようやく敦ちゃんに会えて嬉しいんだけど……一体、どういうこと? 先生、敦ちゃんと逢引き?」 「なぜ、そうなる?」 「あいびき……? 肉か?」  昨今聞き馴染みない言葉に、敦が首を傾げた。 「章、最近観た映画は?」 「映画っつーかドラマ。『赤い』シリーズ。三浦貴大のお父さん、お母さんが出ていた」 「そうか」  知己が「逢引き」の言葉の出どころに納得していると 「そこ! 俺の知らない二人だけの話をするな!」  と敦が怒鳴った。 「……まあ、いい」  コホンと、ようやく震えが止まって血色が戻りつつある唇で敦は演技かかった咳ばらいを一つした。 「俺に隠れて、こんな人目のない所でコソコソ逢うようなマネしやがって……やっぱりお前ら、不純同性交遊する気だったんだな」  偶然にも「逢引き」の意味を正しく理解している敦に 「あれ? 敦ちゃん。(逢引きの意味)分かってるじゃん」  と章が褒めた。その言葉に知己は (なぜ、そこで『逢引き』の部分を省略する?)  と冬なのにこめかみに汗を流しつつ思った。  案の定、 「くっ、やはりそうだったか……!」  と不純同性交遊する気だったことを、悪びれもせずに章がぺろっと露呈したと敦は勘違いした。 「許さん!」  やはりどこか花嫁の父臭漂わせて怒る敦に、章は 「よく分かんないけど、敦ちゃん許して」 「ばか。ノリで答えるな」  知己の心配をよそに、敦の怒りの炎に油をどぼどぼと注いでいた。
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