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が、すぐに思い直し
「しょ……、吹山ぁ!」
向きを変えて章を呼んだ。
「なあにー?」
先ほどまで幼稚な罵声を浴びせられてたとは、とても思えないほど呑気な返事をする章に
「お前が追いかけろ!」
と知己は言った。
「はあ? なんで僕ぅ?」
いかにも面倒臭げに「お前が追いかけろよ」的に章が言うと
「梅木は『章の馬鹿』って言ってたじゃねえか。お前をご指名だ」
知己は説明した。
「あ、そっかー」
章は納得しつつも、いまだのんびり感が抜けてない。それどころか
「でも、どさくさに紛れて、僕のこと『馬鹿』って言ったー!」
章は知己をからかい始めている。
「あー! 分かった! ごめん、ごめん! だから早く追っかけろ!」
知己は、世界で一番安い「ごめん」を連呼し章を急かした。理科室を飛び出した敦のことが気が気でなかったからだ。
「お前らは、とりま早退扱いにしておくから」
「ん? それって出席ってこと?」
「そうなる!」
「分かった」
章は窓際の席から立ち上がり、いそいそと理科室を横断して廊下へと出た。
「あ、先生ー!」
突如、章が顔をドアからぴょこんと覗かせた。
「まだ居たのか?!」
早く追いかけてほしい知己は、敦を見失うのではと焦った。
「放課後の時間、空けといてねー」
掌をひらひら振りながら、章が言う。
(空けておかなくても、来るくせに)
とは思ったが
「分かってる!」
と短く知己は返事をした。
そして、またもやざわつく理科室に向き直ると
「静まれ! お前ら、今度こそ本当に授業再開だー!」
と知己は叫んだ。
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