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「……ふふん。今までの俺だったら、そんなことで容易く着火されていただろう」
そう言うと敦は不敵な微笑みを浮かべた。
(あ。容易く着火してた自覚あったんだ)
と二人が思っていると
「俺はな、昨晩、一皮剥けたのだ」
敦が衝撃の一言を放った。
「ちょ、待っ!? 皮、剥けたー?!」
章が叫んだ。
「どこのー!?」
「どこ? どこって……。章の言っている意味が分からん……」
「惚けないでー!」
語気を強めて言う章に構わず、頬を赤らめて敦が
「これまでのお子様状態を脱却し、俺は一人前の男になったのだ」
少し照れて言う。
「ちょ、どういう意味ー!?」
敦の衝撃発言に章は叫ぶ一方だ。
「そう言えば、敦。昨日一晩、どこ行ってたんだ?」
仕方なく章の代わりに知己が訊く。
「……うぐっ」
一瞬言葉を詰まらせた敦が
「……し、仕方ないだろう」
と笑顔から一転、渋々と答えた。
「家に帰ったら、絶対に章が来ると分かっていた。俺が居留守使っても、なぜかうちの家族にも使用人にも絶対的信頼勝ち得ている章に、俺は差し出される羽目に遭う。だから、昨日は家に帰るわけにはいかなかったんだ」
(あ。昨日、章の言ってた通りだ)
と知己は思った。
「章は、どうしてそこまで信頼を得たんだ?」
「そりゃ敦ちゃんが、ぼーっとしてお知らせプリントを鞄の奥底に蛇腹折にして見せないから、幼稚園の行事は僕が喋って教えてたからじゃない?」
「敦……」
「なんだ、その残念そうな目は」
知己の悲しい視線を受けて、嫌そうにしながらも敦は蛇腹折になった理由を説明をした。
「俺はちゃんとプリントを入れてた。でも気付いたら、なんか鞄の底の方に蛇腹になって溜まってた。それだけの話だ」
これは知己にも経験があった。
小学校の時だ。先生からもらったプリントを綺麗に入れてたはずなのに教科書や筆箱を入れると押されて、蛇腹折になってランドセルの底に溜まる。子供心にどうしてこうなるのだろうと不思議に思っていた。だから敦の気持ちは分からないでもない。
「梅木家は幼稚園の行事を、敦ちゃんのうろ覚えのふわっとした話でしか知ることができなかったんだ。だから、僕の正確無比な証言が梅木家のご家族の皆様のお役に立ってたんだ」
「だって俺、当時4歳だぞ。その頃の俺の話がしっかりしてて、たまるか」
威張って自分を正当化しようとしているが、章は4歳にて正確無比な幼稚園情報を教えていた。敦の正当化は、見事失敗に終わっている。
(そりゃ、しっかり者でいつも正しいことを言う章君……のめっちゃ良いレッテルが貼られる訳だ)
知己は納得した。
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