自由登校なのに 5

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「敦ちゃんが僕を巡って、先生と対決……んきゃーーー! 最高のシチュ、来たー!」 (シチュ、言うな……)  勝手に盛り上がっている章を尻目に知己が呆れていると 「受けて立ーつ!」  拳を高々と掲げながら、ファイティングポーズを章は取っていた。 「なぜ、お前が返事をする?!」 (というか、受けて立っていいのか?)  冷静に考えたら、戦う必要などどこにもない。 「いや、……そういうことなら、俺は棄権する」 「逃げる気か?」  敦が噛みつくように言うと 「いや、謹んで章を進呈したい」  目下、「卒業後は章と付き合うことになっている」と敦から思われている知己が答えた。  章が告白せずとも、これで万事丸く収まるではないか。めでたし、めでたし……なのに 「ダメ! 何言ってんの、先生! 僕のために戦ってよ! んきゃー!」  肝心の章が、それを良しとしなかった。 (おいおい……)  おそらく章は、自分を賭けて敦が挑んできた今のこの状況に酔っている。  その証拠に、やたらと「んきゃー!」「んきゃー!」と声を抑えられない様子で叫んでいる。 (悪酔いしてやがる……)  と知己は思った。 「で? なんで勝負するの?」  キラキラした目で章が敦に尋ねた。 「それ、な。俺も一晩考えたんだが……、悪徳教師の得意な女装でいいだろう」  敦は、なぜか「譲歩してやったぜ」みたいに恩着せがましく言ってくる。 「いや。俺、それ、得意じゃねえから」  知己は即座に否定したが、 「俺の方が百万倍可愛いから、負ける気がしない」  敦は聞いてなどいない。 「本来は、文化祭のミスコンで雌雄を決するはずだったのに、お前は参加しなかった。勝ち逃げなんて卑怯だろ? 2年生の時の因縁引き摺って、俺は消化不良だ。このまま卒業なんかできん。それは他の生徒だって同じだ」  なぜ、他の生徒まで巻き込むのだ。 「生徒主催の文化祭だろ? そもそも教師が参加するってのがおかしな話だ」  1年前に同じやり取りした嫌な思い出が蘇る。だが、このままでは押し切られると、知己は必死に反論した。 「あの勝負の行方は、闇の中。気にしている者も少なくない」  ぶっちゃけ闇の中に投じたのは、敦であり、章であったが。
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