自由登校なのに 5

5/7
前へ
/778ページ
次へ
「言っておくが……」  と敦が知己を睨む。 「わざと負けたら許さないからな。どうせ俺が勝つのは分かっているが、今回は正々堂々の、章を賭けての勝負だ」 (……どの口が言ってんだ)  規約や校則のグレーゾーンで暗躍する敦の口から「正々堂々」とスポーツマンシップな言葉を聞ける日が来るとは思わなかった。 「んきゃー! もお最高ー! んきゃー!」  敦をなんとか納めようにも頼りの章は、胸の前で手を組んでうっとりとしていて、全く止めてくれそうにない。 (こいつ()……万が一にも俺が勝っちゃったらどうする気なんだろう?)  きっと、そんなことを章は微塵も考えていない。今が楽しければ、それでいいのだ。 (昨夜、敦を『男』にした相手も分かってないのに、能天気な……)  と呆れる知己の思いを感じ取ったらしい。 「んふふふ……」  謎の微笑みと共に、口の端の涎を拭う仕草で、ようやく章が現実に戻ってきてくれた。 「先生、分かってるって」  と言うと、「僕にお任せ!」のウィンクを軽くする。  もれなく沸点に達した敦が 「人の目の前で、いちゃつくなバカップル! 絶対にお前らの関係は認めんからな! とことん邪魔してやる!」  怒鳴ったが、章はいつものことと大して気にもしていなかった。 「いいの? 敦ちゃん、僕にそんなこと言って」  突然強気な姿勢に出た章に、思わず敦は一歩後退った。 「な、なんだ?」 「昨日、知らない人とお泊りなんかして。あまつさえ皮剥かれたり、男にしてもらったりだなんて、とーってもふしだらだよ」 「し、知らない人ではないぞ!」 「こんなこと、ご両親やお兄ちゃんず(やっぱり複数形)が知ったら、大変なことになると思うけど……」 「相手は、ちゃんとした人だ」 「どうだが。だって相手の名前も言えないんでしょ?」 「それは……」  ちらりと知己を見た後に 「口が裂けても言えん」  と敦は小声で「特に悪徳教師には」とボソボソと付け足していた。 「だったら、『敦ちゃんは名前も知らない人とお泊りしてたようです。これまでの自由な外泊は、見直した方がいいんじゃないですか?』とご家族にお知らせしなくちゃいけないかなぁ」 「ヤメロ! うちの家族は皆、俺の言う事よりお前の言うことばかり聞くんだから。それだけはよせ!」  まさかここで、4歳の時から連綿と培ってきた梅木家の信頼を武器にしようとは。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加