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「名前は……事情があって言えんが、世界で一番しっかりした身元な人なのはの確かだ」
「そんなの分かんないよ。所詮、敦ちゃんの主観でしょ?」
今度こそ確実に敦をディスっていると思われたが、敦は気付かなかった。
「分かる! 青少年の味方・教育委員会の人間が怪しい人物な訳ないだろう?」
あっけなく敦がゲロった後に、章は「ミッションコンプリート」と晴れがましい笑顔で知己の方を振り返った。だが、そこには敦が叫んだ途端、眉間にピシッと音が出そうなくらい皺を寄せた知己が居るだけだった。
「……将之……?」
なんとなく嫌な予感はしていた。
(昨日、ホテルに泊まると言っていたぞ。まさか、敦と? そして敦の皮剥いたり、敦を男子から男にしたりしたのか?)
腹の奥底にフツフツと黒い感情が湧くのを感じる。
「ま、将之さんではない!」
と敦が言うが、もはや知己は聞いてなどいなかった。
「……敦、お前、将之に何をされた?」
「将之さんではないってば! それにされたのではなく、俺がしたんだ!」
「「した?!」」
章と知己が同時に叫んだ。
「まさかの敦ちゃんが、する側? ……ちょっと僕、夜の妄想シチュを考え直さなくっちゃ」
「???」
章の言う意味が分からないが、なんだか窮地に立たされた気分の敦は
「ライオさんは、俺がイケナイことをしようとしたのを優しく受け止めてくれただけだ」
とにかくこの逆境をなんとかしようと言い繕った。だが、
「今、ライオさんって言ったし」
すかさず章の追撃。
「……」
知己の方は、ますます眉間の皺を深くしている。
「お前らの知っているライオさんとは違う人だ! 頼りになる男と書いて『頼男』さん! ライオさんに、『このことは他言無用』と口封じされたのだ!」
「口封じー?!」
とうとう敦・死亡説まで浮上し、章がぶふぅっと吹き出した。
「敦ちゃん、テンパり過ぎだよー。俊ちゃんみたいな物騒な間違いをしてる。『口封じ』じゃなく『口止め』でしょ?」
さっきまでテンパっていたのは章の方だったのに、今やすっかり形勢逆転。章は冷静さを取り戻している。
ただ、今度は知己の思考がカオスと化していた。
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