自由登校なのに 6

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「あの……また敦と女装することになりまして」  と、知己が伝えると、思わず卿子が 「女装!」  と嬉しそうな声を上げた。  その弾むような高い声に知己は驚き、前田も思わず (なぬ()?!)  とチェックしている振りの手をピタリと止めてしまった。 「じょ……じょそう(除草)……。は大変ですね」  卿子が苦しい誤魔化しをした。  それで前田は、何事もなかったようにまたもやチェックの作業に入ったが ((アテクシ)、聞き逃さなくてよ。女装、とな!)  心の中ではコサックダンスを踊るほど狂喜乱舞していた。  知己と卿子は前田にこれ以上聞かれまいと、より声を落としてヒソヒソと会話の続きを始めたが、前田の聞き耳はデビルイヤー(※)と化し、超人的聴力を発揮していた。 「それでは文化祭の因縁の戦いに、いよいよ決着をつけるのですね」  思ってたよりも、卿子はガッツリ食いついてきた。プロレスか何かの煽り文句みたいなことを言っている。 「え? 卿……じゃなかった坪根さん?」 「先生、知らなかったんですか? 密かに話題になってたんですよ」  敦の言っていたことは、あながち嘘ではなかったらしい。 「結局、一昨年は不正だらけで有耶無耶だし、去年は梅木君の不戦勝みたいな感じで終わったし。真のミス八旗はどっちだと噂になってました」 (真のミスが噂に……? この学校、どんな学校よ)  かつて、八旗高校と言えば学力不振に喘ぎ、素行も悪く、何かとトラブルの多い学校で有名だった。それゆえに競争率も1倍を切って定員割れを起こし、「名前を書けたら入れる」不人気校、堂々の1位である。  教育委員会内でも、この学校の担当になりたくないと皆、声に出さずとも思っている。 (生徒と教師のミスコンに右往左往する、平和な学校になったものね)  と前田は思った。 「梅木君の卒業前に決着付けるの、いいと思います。私、全力でサポートします。衣装演出担当のクロード先生にも声かけますね。めざせ、平野先生の二冠王ー!」  拳を作って鼓舞する卿子に、知己は 「あはは……頼りにしてます」  最初の勢いはどこへやら、やや引き気味だ。 「それで、どのような形で?」 「景品の章が言うには」 「は? 景品?」  思わず章を美味い棒一年分扱いにしてしまった。 (生徒が景品……? やっぱり物騒な高校だわ、ここ)  と思わないでもないが、 (でも、ラノさんなら許す)  依怙贔屓にも勝手に前田は許可を出していた。  卿子が首を傾げると、毛先だけクルンと巻いた長い髪が優雅に揺れて、 (相変わらず綺麗だなー)  と知己はみとれた。 (※)デビルイヤー:デビルマンの歌詞に♪デビルイヤーは地獄耳♪とあって、子供心に「まんまやん!( `ー´)ノ」とツッコんだ記憶があります。
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