如月十日のこと 1

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如月十日のこと 1

 その日は自由登校だというのに、知己達の予想以上の人が体育館に集まっていた。  さすがに文化祭ほどのぎゅうぎゅう詰めとはいかないが、フロアはかなりの人で埋まっていた。ちらほらと八旗高校の制服を着ていない人間もいる。 「ちょっと、敦ちゃん。また?」  体育館左の舞台袖で『賞品・本日の主役兼司会』のタスキをかけて、スーツ着た章が、チラリと敦を冷めた目で見た。 「俺じゃない。そんなことしたら正々堂々の勝負にならないからな。悪徳教師の集めたメンツじゃないか?」 「できるなら『女装は知り合いに見られたくない派』の先生が、そんなことするかなぁ?」 (だったら女装勝負なんか思いつくなよ)  と心の中でツッコみつつ、敦は 「あいつに対するお前の信頼は、一向に理解できんな」  腕を組んだ。 「じゃあ、なんなの? あれ」  緞帳の隙間から章は、ざわざわと謎のミス八旗頂上決戦が始まるのを待つ人々を覗いた。  本当は俊也が 「俺が司会進行する」  と言ってたが、 「こんなこと、僕以外にできるわけないでしょ?」  と章が「司会」と書かれたタスキを取り上げた。 「俊ちゃんは、先生を贔屓するでしょ」 「お前だって、先生を贔屓するだろ?」 「俊ちゃんよりは公平にするよ」 「どっちにしろ、お前ら、悪徳教師を贔屓する気満々の発言に聞こえる……」  敦が渋い顔をする横で幼稚園児のような口論の末、最終的に章が司会を勝ち取った。  よく考えたら、章は相手を好きだろうが嫌いだろうが関係なく、辛辣な言葉を浴びせるのだから、その辺は公平だ。  だったら、 (将来、梅ノ木グループ傘下に入る男がそれでいいのか?)  と思われるくらい 「ラノさん推しだろ? 一択だろ?」  の俊也よりは、公平だろうということだ。  それで俊也は、 「生徒だけだったら、先生に不利だから、体育館に来た人全員投票券配ろう」    と、今回も不正防止の投票方法を考えていた。  気持ちとしては、坪根卿子などの八旗高校教職員も投票できるように「来た人全員」と言っていた。  が、蓋を開けてみると、なぜかこの卒業前の高校としてはマル秘にしておきたいはっちゃけたイベントの情報が漏洩していて、外部からの人間の姿がチラホラと見えていた。
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