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廊下に出た章は、知己の心配していた通りに敦を完全に見失っていた。
「……」
だけど、章は一切慌てず理科室廊下の最奥を目指して歩き出した。そこから非常用扉をあけると続く避難用階段を一段飛ばしに上っていく。
以前、章や俊也が佇んでいた踊り場を抜け、更に上へと上がる。
非常階段は特別教室棟3階建ての屋上に続いていた。
「あ、敦ちゃん」
敦がそこに膝を抱えて座っていた。
「やっぱ、ここにいたー」
口ぶりや態度からいって、敦の行先に心当たりがあったとしかいいようがない。
「……章の馬鹿。あいつばっか贔屓しやがって」
いまだ涙目でそっぽむく敦だったが
「してないよ」
章は答えながら、敦の隣に同じように座った。あれだけ罵倒されて、よくも平気で隣に座れるものだ。
「してる! 毎日毎日理科室にばっか行って。俺と遊ばないで」
大きな目をパチパチと瞬きする度に、涙がポロリと零れ落ちた。見る者の心臓を鷲掴みにするような美少年の涙だったが、章は動じない。
「だから、『敦ちゃんもくれば?』って何度も言ったじゃない」
「イヤだ! 俺は、あいつが嫌いだ」
「そう? 僕は好きだけど?」
「だから、嫌い!」
噛みつくように敦は言った。
「でもさ、あいつに言いたいこと、まだまだあるだろ。あれだけ盛大にルール破っているんだし」
「あるよ! あるに決まってるだろ!」
「じゃあ、放課後行こうよ」
しつこく誘う章に
「章……、本当に俺の話を聞いてないな。あいつが嫌いだから、行きたくないって言ってるじゃないか」
敦は呆れて言った。
「そういっている段階で、敦ちゃんだって僕の話聞いてないじゃん」
「聞いてないんじゃなくて、聞かないんだ」
「威張って言う事じゃないね、それ」
思わず、章はクスクスと笑い出した。
「あいつね……」
と章が切り出すと、敦は耳を塞ぎ
「聞かないってばー!」
大声を上げて章の声をかき消す。
「飛び出した敦ちゃんに、今日の授業は『早退』扱いだって」
敦の妨害に負けずに章は言った。
しっかり聞こえたのだろう。
「それって、どういう意味?」
目を丸くして、敦が聞き返す。
「もしかして、敦ちゃんが出席日数やばいの知っているんじゃないの? 体弱くって休みがちってのも」
「……!」
敦の顔色が変わった。
「行く気になった?」
すかさず章が訊くと
「聞くなー!」
やはり過剰に反応してしまう。そんな敦に
「多感なお年頃だねぇ」
苦笑いを浮かべると
「同い年のくせに!」
敦はもっともな意見を浴びせた。
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