如月十日のこと 1

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「こんな不正防止法、よく考えましたね」  と、サングラスかけた後藤がピンポン玉をくるくると器用に指先で回す。 「体育館の出入り口は一か所のみ。そこで配られるこのピン球。出て行くときは一旦ピン球を返さないと出させてもらえない。何回出入りしても、確実に一人一球しかもらえない仕組みになっているんですね。  そして、最後に自分の気に入った方の箱に投球……じゃなかった、投票」  後藤は体育館ステージ下に設置された大きな2つの段ボール箱を見た。  左側、赤い箱に敦の心なしか勝ち誇っているような笑顔が貼りつけてある。通称「つっしー箱」。  右側の青い箱には、知己の眉間に皺寄せた嫌そうな顔が貼ってあった。通称「ラノ箱」である。 「でも、ピンポン玉の投票券の集計って跳ねたり転がったりして大変くないですかねぇ?」  と後藤が言うと、前田が 「後藤、知らないの? ピン球は業務用たまごのケース使えば、10ずつ数えられて、集計なんてあっという間よ」  と答えた。 「なるほど。それなら、すぐに結果出そうですね」  俊也が必死で考えた不正防止アナログ集計法だった。  これを提案したら章が 「そういうことだけは頭いいんだから」  といつものように絶賛し、俊也がもれなく「ばかにして!」と怒ったらしい。 「さっき『蓮様』って言ってたけど……」  後藤が辺りを見回すと、同じくいつもの眼鏡ではなくサングラスをかけた前田が 「誰? それ」  と聞いた。 「どうせ門脇君も来ているんだろ?」  素顔の将之が、やっと口を開いた。 「居ましたっけ?」 「この辺に見当たらないということは、この特設ランウェイ挟んで、向こう側にいるんじゃないかな?」  お互い、気に入らないもの同士。わざわざ会いに行くまでもない。 「ところで、二人はなんでサングラスを?」  黒スーツにサングラス。すっかりSPみたいになっている二人に尋ねると 「だって、(アテクシ)達、お堅い教育委員会だから」  と、前田が自分でお堅い宣言をした。 「こういうお祭りイベントに堂々参加って訳にはいかないでしょ? つっしー君たちが緊張すると良くないし。ちょっとお忍び感を出そっかなーと」 (あの子達が緊張するわけないだろ) 「僕らは視察ってことでいいんじゃない? ソレ、単に人相悪いだけだよ」  と将之が諭したら 「そうですか? こういうのは形から入らなくっちゃ」  お忍びの形とやらを重んじているらしい。 (一体、僕らはどんな形での来校だよ……?)  と将之は深いため息を一つ吐いた。
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