如月十日のこと 2

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如月十日のこと 2

 二度目に緞帳から飛び出すように現れた司会の章に、会場がざわつく。 「……何、やってんだ?」  舞台から伸びるランウェイの真下では俊也が呟いていた。  俊也はスタッフの特権活かし、最前列に陣取った。  敦に睨まれながらも「俺は将来は敦の下に就く。だが、今だけは己に正直に生きたい」とかっこよさげなことを言いながら、体育館の中央まで分断するランウェイ右側に座した。要は、知己を間近で見たいだけである。  体育館には全校生徒300人の所、将之のような外部の者以外にも教師の姿もちらほらと見えた。文化祭と違って、教師と生徒の一騎打ちとなれば普段から敦達の横行に腹を据えかねた教師が「アンチ敦」で知己側の応援に駆け付けたようだ。  自由登校というのもあり、集まったのは200名程度だろう。  その観客の視線が一斉に章に集まる。  敦に押されたものだから、生まれたての子牛よろしくヨタヨタと章が前につんのめりながらも体勢を立て直し、俊也に「大丈夫」のウィンクを送った。  マイクのスイッチをオンにして 「レディース、アンド、ジェントルマーン!」  とお決まりの定型文を口にし、ようやく始まったかと思ったら 「……って、あれ? なんで、うちの学校にレディが居るの? レディ、暇ぁ?」  女子に人気ない学校ナンバー1の自虐的発言と共に、少ない女性客にケンカを売り始めた。  それに反応した御前崎美羽が 「学校のテスト終わって、暇だったから来てあげたまでよ!」  と売られたケンカにもれなく即買いレベルで噛みついた。 「ちょっと、美羽。落ち着いて! あの子、別にあんたのことを言ったわけじゃないでしょ」  慌てて止める近藤大奈だったが、ランウェイの向こうでも 「違うわ! 視察よ! これは(アテクシ)の仕事なのよー!」  と章の言葉に脊髄反射で反応した声が聞こえてきた。  姿が見えない同胞の存在に 「……あちら()側にも似たような人が居るようね」  と近藤大奈が呟いた。 「あの子達の狙いは分かってんだから」  ギリギリと御前崎美羽は爪を噛む。 「狙い?」 「決まってるじゃない! 門脇君よ! こんな面白そうな(元担の女装)イベントを餌に門脇君を呼び出すなんて。ケダモノの檻の中に兎さんを放すようなもんだわ。危ないったらありゃしない。私が守ってあげないと」  大奈にとくとくと語って聞かせるが、菊池は (門脇が兎さん?)  と首を捻った。 (いや。御前崎ちゃんが守ろうと思っているのは、老若男女問わず容赦なくぶん殴る最強の兎さん(門脇)だからね。なんなら百獣の王的存在の兎さんなんだからね)  と心の中でツッコんだ。言うと御前崎美羽となんなら近藤大奈にまで睨まれそうなので黙っていた。 「この忙しい時期によくぞお集まりになった暇人のみなさん! ミスコン頂上決戦、楽しんで行ってくださーい!」  もはや無差別攻撃に爆弾発言投下の章の言葉で始まったミスコンは、挑戦者の立場の知己先行で始まった。
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