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如月十日のこと 3
時は一カ月前に遡る。
敦と女装対決するに当たり、知己は卿子と共にクロードにも協力を頼んだ。
作戦会議は、二年前の文化祭と同じく放課後に、生徒出禁にして理科室で行われた。
前回も衣装の調達やロック・カノンの選曲、ストール用いてのダンスの指導をしたのは、クロードだ。
頼りになると思っていたのに、そのクロードから
「土台、知己には取り柄がない」
「ええ?!」
まさかのダメだしが出た。
「顔の造形がいいだけ」
「えええええ?!」
本人はまったく気付いていなかっただけに、受けたショックは甚だしい。
「正直、一昨年のダンスを教えるのには苦労しました。ちょっと難しいことしようとすると、途端に混乱してできなくなる。だから簡単なステップの組み合わせとストールの動きで誤魔化すダンスで凌いだんです」
確かにそうだった。
新しいことを覚えようとすると、その前に習ったことと混じって大混乱だったので、ストールや卿子達の生演奏で誤魔化すことにしたのだ。
「対して、梅木君は強敵です。彼は、生まれついてのentertainer。今年のパリピポダンスも見事でした。観客を乗せるというテクニックも素晴らしい」
「あいつ、MJダンスやGAGAダンス、恋ダンスもできるらしい」
理科室で時々章達に披露していたのを、知己は思い出した。
「やだ、強敵過ぎる」
「しかも早着替えは彼の十八番。一昨年はその細身を生かして、舞台でやってのけてましたからね。アイドルコスからセーラー服へと。萌えの権化に着替えてますよ。あれならズルしてなくても、彼は勝っていたかもしれません」
「こちらもズルで応酬しなかったら、負けてましたね」
「しかも、吹山君の最終奥義みたいな最強のズルでしたしね。こちらの策ではない」
(そっか。俺……何のとりえもなかったんだ)
知己は少し遠い目をした。
今まで気付かなかった。
(確かにそうだよな。門脇のような腕力もないし、章のような話術もない。敦のような人を魅了する力もないし、俊也のような行動力もない。生物学は好きだけど、研究体質で大学に残った家永ほどではない。たまたま取れた教員免許で学校の先生になっただけで、実は俺、何の才能もない平々凡々な男……)
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