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ゲーム 開始 8
放課後、章は敦を連れ立って理科室を訪れた。
敦がゴネながら数歩歩いては引き返そうとする。三歩歩いては二歩戻る。365歩のマーチを実演する敦を宥めながらゆっくり歩く章を待ちきれずに、せっかちな俊也は二人よりも先に着いていた。
「来たか、梅木」
俊也と知己が機材整理用ロッカーの前に並んで座り込んでいる。俊也は来てすぐに知己に頼まれ、今日の実験道具を一緒に片付けさせられていた。
(俊也が、あんな奴と並んで……)
見た瞬間に
「む」
と顔を顰めた敦の代わりに
「あ、『敦』って呼んで」
と章が勝手に返事をする。
「章っ! 何を……」
慌てて敦が言うと
「だったら俺も『俊也』がいい」
試験管を並べながら、俊也が横から口を挟んだ。
「なんで、お前まで!」
今度は俊也を睨み付けて敦が言う。
(何だろ、この状況……?)
知己は苦笑いを浮かべるしかなかった。
敦は理科室の入口付近に佇んで、奥には入りたがらなかった。
また飛び出されたら、追いかけるのは自分だと心得ているのか、章は敦の背後、入口の真正面に塞ぐように立っている。
妙な緊張感があった。
知己もなんと切り出したものか考えあぐねて、しばらくは俊也と二人で器具を片付けるカチャカチャという音だけが響いていた。
そこで、口火を切ったのは章だった。
「ねえ、先生。最初に聞いておきたいことがあるんだけど。それが気になっていると、敦ちゃん、素直にしゃべれないみたいだから。そうでなくても素直じゃないのに」
「章ーっ!」
怒鳴る敦の声を無視して章が知己に尋ねた。
「なんだ?」
「なんで、あの時『出席扱い』にするってわざわざ言ったの?」
「ああ、それか。章はともかく、梅木は……」
「『梅木』、ぶー! 言い直しー!」
章が両腕をクルクルと糸を繰るように回し、バスケのファウルジャッジのポーズを取った。
それを見て、知己は
「……あ、敦……は」
渋々と言い直す。
「……敦は早退だろうが遅刻だろうが『出席扱い』がいいだろうなと思って」
「知ってたのか?」
知己の横で、今はガスバーナーを並べながら俊也が鋭く尋ねる。
「知るとはなしに」
と答えると、俊也の細い目が、より吊り上がった。
「おい、隠すな。ちゃんと言え」
凄みを増した命令口調だったが、知己はもう彼らの言い方に慣れていた。
「お前らがゲームをする時しない時の違いを考えてた」
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