如月十日のこと 3

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 知己が自分の無力さに打ちのめされている横で、卿子が 「クロード先生。これから戦うぞーって人にそれはちょっと、言う事が厳し過ぎやしませんか? 意気消沈ですよ」  と諫めた。 「以前は、もうちょっと優しい言い方されてたと思うけど、な」 「そうですか? 夏以降かな」 「夏以降?」 「知己に隙がなくなって、なんかつまらなくなった気がして」 「平野先生に隙が無い? それは、むしろいいことでは?」 「それでも頼られると悪い気はしないんですが」 「???」  不思議がる卿子に (逆転の目がないと分かったら、それが態度に出ちゃってましたかね)  と、まだ悶々と考え込む知己をクロードは横目で見た。 (よく考えたら、将之なんか取り柄の塊じゃねえか。見てくれも良ければ、言動はあんなだけど実は頭すっげーいいし、何させても巧いし、謎のカリスマ性でやたらと人から慕われているし……、卿子さんが俺を相手にしてくれない訳だ)  今度は知己がチラリと卿子を見る。 「大丈夫ですよ! 平野先生にはこれといった印象に残らない、何のとりえもないかもですが、それを補って余りある美貌がありますから! 女装にはうってつけです!」  とと言う名のトドメを刺した。 「その点、アピールタイムなしというのは有難いですね。純粋に女装での美しさを競うってことで」 「……ただ歩くだけじゃ面白くないから、歩きながら、もしくは止まっても短時間なら何かするのは有りだそうだ」  卿子のトドメからいまいち復活しきれていない知己が、ぼそぼそと付け足す。  だが、それもどちらかというと芸達者な敦に有利な話だ。 「取り柄がないので、3回もどんな衣装にchange(チェンジ)しますか? 迷いますね」 「ぅぅ……っ(取り柄ない……)」 「早着替えできそうなもので、何か人の目を惹くもの……」 「テーマ性があったら、なお良いと思います。  知己、私たちが知らない実はあなたの得意なことってないですか?」  料理をことごとく炭化させる自信だけはあるが、多分、それを言ってもクロードに「地球温暖化ーっ!」と怒られるだけだ。 「特技……」  少し考えていた時に、知己の歩き方指導でクロードが持ってきていた竹刀が目に入った。 「あ! 俺、高校の時に剣道部だった」  「そうでしたね。前任校体育祭での早着替え、あれは見事でした」 「取り柄があって良かったですね、平野先生」  地味に知己が傷ついていると知らずに、卿子はめった刺しに励まし続けていた。
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