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「……ですが、あれで知己のHDDはいっぱいになってしまいました」
不安を隠せず顔色さえないクロードが、ミスコンの舞台に立つ知己を見て溜息を吐く。
予想通り、体育館は知己の扮する美しき剣士登場で盛り上がっている。
2曲目のBGMは敦のリクエストで「Beat it!」になっていた。
すぐに曲の意味に気付いた知己は
(敦のヤツ!)
と瞬間湯沸かし器的に怒りはしたものの、舞台に出たら、敦の魂胆にかまってなどいられなかった。
どちらかというと、演武以外考えられない「無」の境地に近い。
もちろん、いい意味ではなく悪い意味で。
鬼コーチ・クロードに逆らったら、もれなく約束三箇条を卿子に唱えさせられる徹底した1カ月で、演武は叩き込まれたのだ。
それをこなすので、いっぱいいっぱいだった。
知己の衣装は、洋楽には合わないが、知己が必死に覚えた演武と歌詞はマッチしていた。
竹刀よりも模造刀の方が見栄えがいいだろうというのが、クロードのこだわりだ。ランウェイで日本刀片手に
「すり足で刀身を抜く。そこでジャンプして、半転し、一旦停まってから次の動きで……」
ブツブツと唱えながらたった一つ覚えた演武を繰り広げる知己に
「L・O・V・E! ラブリーラノさん! K・I・T・T! 斬ってくれ、ラノさーん!」
と俊也が弾けた声援を浴びせた。
(KITT?)
司会ではあるがショーの流れから口を挟めない章が、舞台袖で俊也を悲し気に見つめた。
(多分、「KILL」もしくは「CUT」って言いたいんだろうなぁ、俊ちゃん……)
無駄に混ざった謎の言葉。ローマ字にしても間違っている残念な声援に、本人だけは気付いていない。
「んきゃー! ラノさん、きれかわー!(※)」
前田がスーパーイエローな声を発した。
もはや「どこが視察?」「どこが仕事?」的にはしゃぐ前田と違って、隣に座る将之は、まだ「教育委員会」の立場を忘れていない。彼女と共にはしゃぐわけにはいかず、すんっと平静を装ってランウェイを見つめる。
(ああああああああ、先輩の和装……! 見に来て、良かったー!)
澄ました顔とは裏腹に、心の中ではブレイクダンスを全力で踊って喜んでいた。
前田の声援を皮切りに、敦に遠慮していた者も「綺麗だ」と本音を丸出しに騒ぎ始めた。ただ、ほぼ男子高校生で構成された八旗高校。その体育館での野太い声だと「綺麗」が「きれっ」に聞こえた。「きれっ」「きれっ」とあちこちから湧く声援は、ミスコンというよりもボディビル選手権の様相を呈していた。
(※)きれかわ:綺麗で可愛い。
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