如月十日のこと 3

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「なに、あの超絶キュートなミニスカポリスちゃんはー!?」  ロリロリだったピンクのナースワンピから、こちらも一転、清楚だがどこか威圧感ある紺色の制服に身を包み、 (男は巻き髪に弱いんじゃーぃ!)  と言わんばかりの揺れる毛先カールのボブカットで、敦は現れた。  目深にかぶった制帽から覗く挑発的な視線には、警察(ポリス)なのにどこか小悪魔的要素がある。  しかも敦は、無重力(ゼログラビティ)以外のMJダンスのほとんどを踊れる。MV(ミュージックビデオ)に合わせた動きで、ミニスカートにも関わらず大胆にやって魅せた。  見えるか見えないか、少年漫画のヒロインもかくやのギリギリの動きに体育館は翻弄され、色めき立った。 「ぐ、ふぅっ……」  よもやの敦の色仕掛けに、パイプ椅子の上で前かがみになる男子も居る。  世代的にもMJを知らない者が多数いたが、有名な曲だし、知らなくとも敦のクォリティの高さは分かる。  その内、 「ぎゃんかわ!(※1)」 「げろかわ!(※2)」 「ばちかわ!(※3)」  と、例の「可愛い」の類語が次々に飛び出し始めた。  舞台袖で知己が (「可愛い」には、色んなバリエーションがあるんだなぁ……)  と感心していると 「私でもあんなミニスカ履きませんよ!」  隣で卿子が思わず唸っていた。 (え。卿子さん、ミニスカ履くんだ……)  ちょっと朗報……と知己が頬を赤らめていると 「知己、こんな時に何を浮ついた気持ちで喜んでいるんです?」  すかさずクロードが突っ込んだ。 「状況を分かっているんですか? せっかく演武でこちらが有利になったのに、ガッツリもっていかれたんですよ。  道理で梅木君がBGMで『Beat it』をリクエストした訳です」 「恐ろしいほどの才能の持ち主ですね。梅木君は」  卿子が惚れ惚れとして言う。 「好きこそものの上手なれ」というが、まさにそれを具象化している。  だから猶更、大したことのできない知己が受けるのが許せなかった。  教師なんて都合のいい生き物、大嫌いだと敦はいつも言っていた。それなのに、2年の時に知己が赴任して以来、なにかと章が絡みたがるのも気に食わなかった。 (そんなに悪徳教師(あいつ)のことが好きなのかよ?!)  元々できていたダンスだが、この一カ月間で敦の方も鍛えていた。 (あいつがいかに無能か、思い知らせてやる!)  少しのミスもしないし、起こりうるはずもない。  自信に満ちた動きは、見る者すべてを圧倒した。 (※)全部類義語。 (※1)ぎゃんかわ:ものすごく可愛い。 (※2)げろかわ:嘔吐するほど衝撃的に可愛い。 (※3)ばちかわ:ばっちり決まって可愛い。
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