如月十日のこと 3

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 本人曰く、どこまでも「萌え」を追求した今回のミスコン衣装だ。 「ツッシー君、萌えー!」  敦の作戦にまんまと乗って叫んだ前田が、己の両肩を抱いて膝すれすれまで突っ伏してわなわなと震え出した。どうやら、必死に湧き上がる感情(萌え)を押さえているようだ。 「……確かに、これは凄いな」  と将之も感嘆の息を漏らした。  ランウェイの先端で、敦が太腿に付けていたホルダーから小型拳銃を取り出し、右腕をまっすぐ伸ばして構える。  何事かと静まる会場で 「Bang!」  と敦はウィンクと共に拳銃を撃った。  拳銃の先からは、紙吹雪がパーンと勢いよく飛び出し、照明を受けてキラキラと光った。  その瞬間に、わあっと会場が湧いた。 「あれ? 中位先輩。前田、どこに行きました?」  将之の逆隣りの後藤が、前田が忽然と居なくなったことに気付いた。 「さっき『ひゃっはー!』って言いながら、紙吹雪を拾いに行ったよ」  みるとランウェイ下では紙吹雪を拾う者が、バーゲンセールよろしく賑わっている。あの一団に前田は加わったようだ。  そこに教育委員会の威厳は微塵もない。 「あいつ……、楽しんでますねぇ」  と言いながら後藤は (……俺も行けば良かった)  と少なからず思っていた。  「ハスハスハス! 分かりましたよー、つっしー君の狙いが!」  キラキラ光る紙吹雪を抱えた前田が、鼻息荒く戻ってきた。それでいてキリリと眼鏡の中央を中指でクイと上げる。まるで敦の狙いを探りにでも行ったかのようだが、ただミーハーに敦が使った紙吹雪が欲しかっただけだ。 「ツッシー君は、を狙っています!」  なるほど。 「ゴスロリならヘッドドレスで良いものを、あえて今の時代すっかり化石と化したナースキャップ(※)で登場したのは、そういうことか」  将之が納得して頷くと 「いわゆるひとつの萌えの具象化・みんなの憧れナースキャップですからね!」  前田が、水を得た魚状態でつらつらと語る。 (時々、中位さんと前田は異常に話が合うんだよな……)  後藤は色んな意味で入ってはいけない会話だなと悟り、傍観することに決めた。 (※)ナースキャップ:1980年代に徐々に廃止方向になったそうです。(知らなかったです💦)廃止になった理由は不潔論や看護師さん自身が面倒に思っているそうですが、男性の看護師さんが増えたのもその理由の一つ。でも、萌えの象徴の一つだと思いました(*´▽`*)。
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