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如月十日のこと 4
興奮のるつぼと化した体育館で、知己は焦った。
「どうしよう、クロード」
知己は、クロードの指示で3つ目の着替えをまだ済ませていない。しかも、それらしき衣装がどこにも用意されていない。
「早く、次の着替えを……!」
会場の様子に、すっかりご機嫌になった敦が小道具の手錠をくるんくるん回しながら、スキップしながら戻ってきた。知己達のいる右舞台袖を一瞥し
「ふふん」
と鼻で笑うと、自分の陣営に帰っていく。
それを目で追いながら
「知己、私達との約束三箇条を覚えていますね」
とクロードが静かに言った。
「もちろん」
コンテスト始まる前にも、きっちり言わされた。
「では、私のすることを拒みませんね?」
次の知己がなかなか出てこないので会場がざわつき始めた。それで、知己は余計に焦った。
「いいから! 早く!」
「拒みませんね!?」
しつこく念を押すクロードに
「ああ、もう! 『どんな女装でも拒みません。勝つまでは!』」
たまらず知己が叫んだ。
すると
「よろしい。では、最後の衣装を授けましょう……」
クロードは、光の速さで知己の頭と腰に何かを装着した。
「なんだ、これは!?」
189㎝という長身のクロードに自分の頭の上に何かを付けられた。そして、なんだかよく分からないまま、ぽーんと舞台に放り出されてしまった。
タイミングよく、音楽が3曲目に変わる。おそらくは、クロードはこのタイミングを狙っていたのだろう。
放り出されたはずみでよたよたと現れた知己に、会場は一瞬静寂に包まれた。
舞台の上で、知己がケソケソとしたのは一瞬。
わああああああ……っ!
突然、爆発するかのような歓声に会場は包まれた。
1曲目はミスコンスタッフ(主に俊也のリクエスト)による選曲。2曲目は敦陣営より。3曲目は知己陣営が選んでいいということになっていた。
クロードが「私が決めておきます」と言っていたのを思い出した。
演出は全てクロードに任せているので、特に知己に意見はないので
「別に。俺にリクエストはないから、クロードに任せるよ」
と返事してたので、知己自身は曲を知らなかった。
"Ring-ding-ding-ding-dingeringeding!
Gering-ding-ding-ding-dingeringeding!
Gering-ding-ding-ding-dingeringeding!"
What the f〇x say?
「テラかわゆーすっ!!(※)」
その途端、前田が心の底からの雄叫びを上げた。
(※)テラかわゆす:前田流言語。「最高に可愛い」と言いたいらしい。
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