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「ふぉぉぉぉ!」
俊也が一瞬吼えたかのように叫び、その後に、
「L・O・V・E、ラブリーらのさん! F・O・K・S、ケモ耳ラノさーん!」
全力で体を左右に大きく揺らして、オタ芸を披露し始めた。
(俊ちゃん。狐が英語でフォックスというのは知ってたんだね……)
俊也のスペル違いな叫びに、章はやはり少し悲し気に見つめていた。
知己がステージ出る直前にクロードに装着されたもの……それは狐耳カチューシャと狐のしっぽであった。
頭にピンと立つ細長い三角の耳。腰に付けられた大きなふかふかした茶色いしっぽは袴と同じ色の紐で縛られ遠目からは分からない。本当に生えているように見え、知己が動くたびにぽよんぽよんと大きく揺れる。
「わあ……。知己先生、思い切ったなぁ……」
動揺隠せずに門脇がうわずった声で呟くと、右隣の男がわしっと門脇の右手を握った。
それを目敏く見つけた逆サイドに座る美羽が
「ああああー! どさくさに紛れて、門脇君に何してんのよー?!」
と叫ぶが、会場は騒がしく美羽の声は男には聞こえなかった。
ぎゅうっと門脇の右手を握って放さないばかりか、眼鏡の下から自らの右手を差し入れ、そっと目頭を押さえた。
「ありがとう……ありがとう、門脇君。今日ほど、君に感謝したことはない」
「来て良かっただろう? 先生」
あまりの感動っぷりに、やや引き気味になる門脇だが
「先生が元気出て良かった!」
と握られた手をきゅうっと握り返した。
「むきょくきょ、きぃーっ!」
美羽が何語だか分からない言葉で怒り狂い、負けずに門脇の左手をわしっと握った。
「え?」
驚く門脇に、まさか対抗心燃やして握ってしまったとは言えずに
「と、知己先生の応援に私たちも踊りましょう!」
と美羽は誤魔化した。
見ると、近藤も菊池もその向こうの知らないDK達も、ほとんどの者が曲に合わせて踊り出している。
"Wa-pa-pa-pa-pa-pa-pow!
Wa-pa-pa-pa-pa-pa-pow!
Wa-pa-pa-pa-pa-pa-pow!"
What the f〇x say?
何も分からずにステージに飛び出した知己はというと、事態を把握しきれず、誰もが躍る中、キョロキョロと所在なさげに辺りを見渡すだけだった。
「知己、しっかり! とりあえずランウェイに!」
「平野先生、がんばって! とりあえずランウェイに!」
割れんばかりの声援の中に、舞台袖の卿子達が同じ指示を飛ばした。
それで知己は
(この格好で?!)
と泣きそうになりながらも、とりあえずオドオドとランウェイに向かって歩き出した。
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