如月十日のこと 4

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「あいつら……! 狙いは『ギャップ萌え』か?!」  地獄の底から這い出てきた亡者の声など聞いたことないが、例えるならそんな世の恨み辛みの全てを、妙齢の女性のバスト(※)のように寄せて集めた声が、今の敦の声だった。 「……ぬっころす!」  と吐き捨てるように言う敦の横で、 「既に、先生の精神面は瀕死状態だけどね」  章が舞台の向こう側を指さし、目には涙を浮かべながら爆笑していた。 「はいはい、敦ちゃん。そんなお顔しないで。美少女が台無しだよ」 「うるさい! どーせ、お前はあいつの味方だろ?」 「最初と最後以外に仕事ないけど司会者だし、賞品だもん。中立だよ」  と、またもやタスキの文字を指さす。 「……ふんっ」  と鼻息荒く返事をすると、敦は立ち上がった。  そして、ぼそりと 「……俺の味方って、絶対に言わないんだな」  と言うと、すうっと怒りの表情を解いた。  そして、一歩、舞台に歩み出た。  先ほどまでの仁王っぽい表情は微塵もない。  見事なまでの美少女の顔だ。  深紅のブレザーに、赤いチェックのミニスカート。胸には、りぼん。 「ツッシー君、今度はすっちー?!」  後藤が嬉しそうな声を上げた。  その途端、前田ががばっと起き上がり、倒れたはずみでズレた眼鏡を正して凝視する。 「……違う!」  コスプレ鑑定士と化した前田が、一刀両断に否定した。  ハーフツインテに結った髪とルーズソックスが、CA(スチュワーデス)でないことを示している。 「あれはギャルコスよ!」 「ギャルコス?」  おそらく敦のCA(すっちー)コスを密かに楽しみにしていた後藤が、怪訝な顔をする。 「見なさい。チックトックよろしく『メ組の女』ダンスしながら、ランウェイを歩いている……あれは制服は制服でも、JKの制服なのよ!」  またもや会場からは「かわ!」「かわ!」の声が飛び出し始めた。 (男は、な……結局JKが好きなんだよ!)  心の中で、敦が得意げに呟く。 (しーかーも、脱・マンネリズム! 俺様は一昨年と違い、今回はブレザー仕様だ。  正直、ケモ耳には驚かされたが、あくなき萌えの探求心かつフロンティア精神(スピリッツ)溢れる俺様が、愚鈍でワンパターン女装しかできない悪徳教師に負けるはずなどない!  さーらーに、長髪、ミニスカ、JK。一分の隙もないとはこのことだ。どうだ、男の萌え要素てんこ盛だ。三十路の悪徳教師には、到底真似できまい!) (※)やたらと女性の胸の話が出てますが、私に特に深い考えはないです。聞いた話を、それこそ寄せて集めただけですので💦
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