如月十日のこと 4

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 長い髪を揺らしながら、敦がランウェイの先端にたどり着く。   そこで立ち止まると、これまでも数々のキュートなポージングを魅せてきた敦だ。自然と観客は期待の視線を向けた。  敦は顔の前で手の平を内側に向け、指先までピンと伸ばしたポーズを取った。 「あざとっ!」  舞台袖で思わず卿子が唸る。  だが、それだけで終わらない。  続けざまにその手を前に差し出して、敦は裏ピースをして魅せた。   「はきゅーんっ! めっかわー!(※)」  たまらず、前田が叫ぶ。 「ぎゃうポーズからのよどみなく流れる動きでのぎゃるピース! まるで大車輪からムーンソルトを決められた気分だわ!」 (前田はコスプレ鑑定だけではなく、体操の解説もできるんだなぁ)  もう傍観していようと心に決めた後藤は、密かにそう思った。 「いや、それだけじゃない」  前田が自力でパイプ椅子に座ってくれたので、ようやく解放された両腕を組みながら将之が付け足した。 (あれ? 中位さんまで何かの解説者みたいになってる?) 「前田君。つっしー君の口元をよく見ろ」 「え? あ……、ああ!」  敦は、小さくすぼめた唇を尖らせていた。 「なにげに、ちょっと前に流行ったアヒル口!」 「ついでに目には……」 「目?」  前田が、手を丸めて輪を作ってその中を覗き込んだ。 (サングラスの上からそんなことして、効果あるんか?)  と後藤が思っていると、効果があったらしい。 「あああああ! カラコン入れてる! なんてこと! 頭のてっぺんからつま先まで、徹底したギャルコスー!」  前田と将之の会話に、後藤は、もうどこからツッコんだらいいか分からずに途方に暮れ (……中位さん、めちゃくちゃ目が良いんだなぁ)  とだけ思っていた。 (※)かわいいの類義語。 めっかわ:めちゃくちゃ可愛い。 これで私の「かわ」言語は、全て出し尽くしました。 【関連イラスト】「挿絵を上げてみました。」 https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=626
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