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如月十日のこと 5
こうして30分に及ぶ戦いは終わり、いよいよ投票の時間となった。
各々、良いと思った方の投票箱に、体育館入場時にもらったピンポン玉を投入していく。〆切はこれより更に三十分後。それまでは休憩時間となっていた。
「どう思います、Ms.坪根」
「うーん、どっこいどっこいですかねぇ」
舞台袖で、投票箱の前を行きかう人たちを見つめながら卿子は答えた。
「途中までは完璧にヤられた感ありましたが、最後の狐ちゃんダンスで巻き返した感じがします」
卿子達の話すその奥にパイプ椅子を出し、装着された狐耳としっぽを付けたままの知己が
(うぅぅ、どんな結果だろうと俺はやり切った。早く終わってくれ)
と願っていた。
章の考えたルールでは、最後に身に着けた衣装のまま結果発表を聞くことになっている。
(……生き地獄かよ)
そんなことを知己が考えていた時だ。
「おぅい、せんせー!」
開いたままの緞帳の向こうから舞台袖に向かって、知己を呼ぶ声が聞こえた。ステージの下からおいでおいでと手招きしている。
「門脇……」
わざわざ来てくれたのだ。引っ込んだままな訳にもいくまい。
とはいえ恰好が格好なので、渋々と立ち上がると最初に使ったオーガンジー生地のストールで狐耳をほっかむりで隠してみた。当然、薄い生地のストールで三角の耳は隠せるものでもない。
「どうせ隠せないのです。みっともない真似はおやめなさい」
と、クロードから軽く剥ぎ取られた。
仕方なく、そのままの姿でシオシオと前に進み出る。
「お前ら……暇か」
こんな格好で素直に礼など言えるはずもない。
「ははは、ぶっちゃけ後期試験終わって暇だ」
知己の強がりを門脇はあっさりといなした。
「あっちは美少女顔のツッシーだろ? だから味方を連れて来てやったんだぜ」
と、門脇の後ろにいる美羽、大奈、菊池、そして家永を親指で指さした。
「先生、安定の綺麗さだったよ。前の学校の時と変わらない美女」
美羽が言うと
「八旗のミスコン頂上決戦と聞いたら、来るに決まってるでしょー?」
大奈が続いた。
「不毛な戦いだったけど、見ごたえあって面白かったっす」
と菊池が言うと
「狐の先生が可哀そうだから、『不毛』って言ってやるなよ」
門脇が冷たく制した。
一瞬知己が「……ぅっ」と小さく唸っていると、一番後ろにいた家永が門脇に押されて前に進み出た。
「……平野、久しぶりだな」
いつも冷静な家永が珍しく照れている。
久しぶりに会う所為だろうと、自分が狐耳を付けているのを忘れて知己は思った。
「家永……。どうしてここに?」
「後期試験後の単位認定の作業も終わってたし、門脇君が『一緒に行こう』と誘ってくれたんだ」
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