如月十日のこと 5

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+++++ 「はあ? 女装対決?」  門脇が研究室に来て、すぐに昨日クロードから聞いた話を家永に伝えた。  そんなもの、知己が喜んでする訳がない。  そして、家永に見られたいはずがない。 「……行きたくない」  と頑なに拒否したが、門脇が 「負けられない戦いなんだってさ」  と言う。 「夏以降会ってないんだろ?」 「実験が忙しかったからな」 「嘘つき。海浜研究所で大量に俺が取ったデータのおかげで、実験計画はかなり貯金できたって言ってたくせに」 「……本当だ」  と、家永は嘘を吐いた。  8月の月一逢瀬は、海浜研究所で過ごした日々と近過ぎたので、会うことはしなかった。  9月は、なんとなく気まずくて、どちらからも連絡をしなかった。  そうなるとなんとなく連絡を後回しに後回しにしている内に有耶無耶になり、ついには連絡を取らないのが当たり前になっていた。  月一逢瀬で二人が会っていないというのは門脇は知らない筈だが、聡い門脇は家永の夏以降の様子が気になっていた。 (気まずくなっているんだろうな……)  他人のことなんか放っておけばいいのに、と思う反面、なぜかなんとかしたいと思う自分がいる。  なぜだかは分からない。  数年前、知己の時もそうだった。  ほっとけば将之と知己の関係はダメになって万々歳だった筈なのに、いつもと調子が違う知己をほっとけなくて、わざわざ将之をけしかけに行った。  今回も夏のことを知っている所為だろう。多分、何の関係もなかったら、こんなに気にならなかった。  家永はいつも通りに涼しい顔をしているように見えるが、門脇はどこか違うと思っていた。 「俺が原因作ったようなもんだから……。後味悪くって嫌なんだ。こういう馬鹿らしいお祭りイベントで再会したら、自然に打ち解けないか?」 (そういうものだろうか?)  あの門脇が、こうまで言ってくれる。  今年度の論文は1月に提出した。  時期的にも単位認定は終わったばかり。授業もない。今やっている実験もない。  だったら、気乗りはしなかったが、行ってみるのもいいかもしれないと家永はようやく重い腰を上げたのだった。
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