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「あ、あの……」
知己の頬に朱が挿す。
(ずっと気になってた……。でも、どうしても連絡取れなかった……)
お互いに似たような思いが胸に去来する。
「来てくれてありがとな。久しぶりに会えて、……その、正直嬉しい」
8月から心の中で固まっていた何かが解けだしたような感覚だ。
家永が相手だと、素直に礼が言えた。
そんな知己に応えようと家永は
「いや。その……」
返事に窮した。
門脇達の目がある。
さすがに「俺も会いたかった」とは言いづらい。
特に8月、記憶もないのにあの男の方に行ってしまった知己に対して、言うべきではないと思う。
和装狐コスの知己がステージに跪き、じっとステージ下の家永を見つめて返事を待っている。
「……その姿、似合っている」
家永が出した返事は、最悪の感想だった。
「やめてくれ。泣くぞ」
全力で嫌がる知己に
「本気だ。平野」
図らずも家永は、追い打ちをかけてしまった。
「本気なのが、余計に悪い」
「聞いてくれ。俺は、平野の高校時代の部活動の話は聞いていた。だけど話だけで、そんな格好をしているのを見たことがなかった。だから、本当に……お世辞でも嫌味でもなく、和装似合うんだなって」
「……そういうことか(狐耳のことじゃなかったのか)」
ぽふんと改めてもう一度赤くなった知己は
「……ありがとう」
と、もう一度礼を言った。
(本当はけも耳も似合っていると思っているんだろうけど、そこは知己先生の地雷と踏んで、言葉にしない。家永先生、さすがだなぁ)
と、門脇は思っていた。
「ど、どなたでしょう? あちらの方は」
知己のいつにない親し気な様子に、卿子が戸惑った。
「私も知らない人ですね。でも、知己とすごく親し気だ。なんなら」
「なんなら?」
「……(意地悪マスターより、よほど親し気だ)」
と思ったが、クロードは言葉にしなかった。
門脇の連れてきた最後の人は、門脇達よりも年上で落ち着いた雰囲気だ。しかも知己が恥ずかしそうにしながらも、来てくれたことを喜んでいる。それだけ気の置けない存在なんだろう。
「やだ、素敵。どうしよう」
卿子が両手に頬を当てて、ふるふると身を震わせた。
「どうしようって……?」
卿子の意外な反応に、クロードが言葉に詰まる。
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