如月十日のこと 5

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 卿子とクロードの遠慮なく注がれる視線に気付き、 「いつも平野がお世話になってます」  と、家永が軽く会釈をして応えた。 「……え? あの?」  いぶしかげに卿子が尋ねると 「卿子さんと……クロード=井上先生ですね? 平野から話は聞いています」  順番に卿子からクロードに視線を移して家永は挨拶をした。 「あ、ばか、お前!」  さらりと「卿子さん」呼びした家永を知己は咎めた。  言葉に自分達(知己の同僚)のことにも詳しそうだと思え、よほど知己が話しているのだろうと感じた。 「あの、どちら様で?」  卿子は自分の名前呼びを気にせずに訊くと 「自分は慶秀大学で理科学研究している家永晃一と申します。平野とは大学時代からの友人なんです」  と爽やかな笑顔と共に自己紹介をした。 (慶秀大!)  有名な難関校の名前に、卿子が驚く。 (そこで研究しているということは……)  当然、難関大学の学生の上をいく頭脳の持ち主だ。 「……門脇君達の大学の先生ですか?」  と卿子が聞くと 「不本意ながら」  家永は即答した。 「不本意、言うな」  門脇がすかさず突っ込む。  かつて問題児だった門脇達を率いるその度量に卿子は (やだ、どうしよう。すごくかっこいい。あの門脇君が懐いているなんて、この人、凄ーい! 凄ーい! 凄ー……)  心の中で「凄い」にエコーかけながら、それが本当に口から飛び出しそうで、卿子は思わず口元を両手で隠した。 (……卿子さんの目が、ハートになっている気がする……)  敏感に知己は察した。 「それにしても酷いよなー、おっさん」 「おっさん……」  門脇のいうおっさんとは、中位将之のことだ。  不意に、置かれた現状を思い出した。 「あいつ、あのガキの方に投票してたぜ」  投票箱を別々に設置しているので、どちらに投票したかなど丸わかりなのだ。 「何っ!? やはり、そうか!」 「やはりって?」  門脇は首を捻った。 (適当に言い訳しているけど、やはり二人はホテルに行ったのだな……) (浮気者め……) (そんなに敦の方がいいのか)  ふつふつと色んな感情が湧いて、消えた。  あの日、無駄だと思いつつも将之に聞いたが、当然のようにはぐらかされた。  狐コスで不穏な空気纏う知己に (なんか、生霊でも飛ばしそうだ……)  非科学的なことを考えながら家永は、 「お前がこういうのに参戦するとは珍しいな」  と尋ねた。 (まさか、将之が口を割らないから敦の方から聞くため……とはとても家永に言えない)  黙る知己に 「あいつら、卒業するから渋々付き合ってんだろ?」  門脇が助け船出した。 「……まあ、そんな所」  知己は家永から視線を外して答えた。  やがて時計は11時を指した。
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