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結果発表
それまで散り散りになっていた者も、体育館の会場に戻り、各々の席についた。
いよいよ結果発表だ。
体育館のステージ上真ん中には長机が置かれた。その上に30度程度の傾斜板があり、前田の読み通り業務用玉子ケースをご丁寧に敦カラーの赤で塗ったものと知己カラーの青で塗った箱があった。そこに投票したピン球が並んでいる。スポットライトが当たってはいるが、今はまだ布をかけられ隠されていた。
側に司会の章と、集計結果発表係の俊也がたたずんでいた。合図で布を取るのが俊也の仕事なのだろう。
章を挟んで最終コスチュームを解いていないJK敦が左に、狐の知己が右に立っていた。
(なんだかなぁ……)
卒業前の大切な時期にこんなはっちゃけたイベント。知り合いと言えど将之達教育委員会は視察に来るし、外部からは聞きつけた門脇はおろか親友まで見に来てしまった。
(うぅ、視線が痛い……)
奇妙な居たたまれなさを感じる知己と対照的に敦は自信満々、堂々と両手を組んで勝利を確信しているかのように雄々しく立っている。
ようやくまともな司会の出番がきたと嬉しそうに、章がマイクをONにした。
「世間では年度末決算に向けて忙しい時期にお集りの、暇なレディース&ジェントルマーン!」
もれなく無駄にケンカ腰に呼びかけると、即座に美羽が
「べ、別に暇じゃなぁーい!」
と反応し、ランウェイ逆サイドでは
「だから、私は仕事だっちゅーのっ!」
と、ソプラノヴォイスが甲高く響き渡った。
「集計係の俊ちゃん。集計結果は?」
と章が聞くと
「100対99」
サラリと俊也が答え、舞台袖の音響係が「あ、俊也め! 俺の合図を忘れやがって!」と用意していたドラムロールの音源を無駄にされて唸った。
「うわ。まさかの1票差!?」
素で驚く章の隣で敦が
「ふっ、はははははー!」
堪えきれずに高笑いした。
「一票差だろうがなんだろうが、勝ちは勝ちだ! ざまぁ、悪徳教師め! あざといコスしやがって」
と、知己の狐耳を指さした。
(それ、敦ちゃんが言う?)
と章が思う中
「俺の方がずっかわなんだよ! 俺の美しさの前にひれ伏すがいい!」
やはりどこか悪役に片足突っ込んだセリフが溢れ出し、たかが一票差でよくぞこれほどというほど、敦は自分の可愛さと勝利を誇示した。
(……なんだろうな、全然悔しくない)
と知己が思っている向こう、舞台袖では卿子とクロードが
「うぅーっ! 健闘虚しく一歩及ばずでしたか! 巻き上げたかと思ったのに!」
「梅木君、そんな態度だと、社会に出た時に痛い目見るんですからねー!」
と歯ぎしりして悔しがっていた。
絵にかいたような卿子とクロードの悔しがりように、敦はますます喜び、
(一票差……)
知己は不意にフロアに目を向け、思わず将之を睨んだ。まるで負けたのは、お前の所為だと言わんばかりに。
その視線に
「きゃー! 狐ラノさんが、こっち観てるぅ!」
と前田は心の中で盛大にベリーダンスを踊っていた。
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