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俊也のポカのおかげで仕事するタイミング奪われた音響係が、ここで勝利のファンファーレを鳴らし、最初に使ったBGM「A Question of Honour」のサビの部分をフェードインした。
誰に焦点当てたら良いのかさっぱり分からなかったスポット係は、章の手の差し出された方向で、なんとなく察して知己を映し出した。
ようやく真の勝利者が分かった体育館は、すっかり祝福……というかお祭りムードに包まれた。
そこかしこで歓声が上がり、抱き合い、BGMに合わせて歌って喜ぶ者が現れた。
「きゃー! らのさん優勝よー!」
今度こそジュリアナダンスを本当に踊り出した前田を、後藤が
「やめろー!」
と将之越しにタックルして止めた。
それでも止まらない前田の横で、後藤にサンドイッチ状態にされながら将之が
(……ちっ。勝っちゃったか)
と、渋い表情を浮かべていた。
いまいち勝った気がしない知己の視線は
(一票差……)
自然と門脇達の方へ向いた。
門脇や美羽が大騒ぎしている横で、家永は蚊帳の外を決め込んでいる。パイプ椅子に座り一人静かにたたずんでいが、知己がこちらを見たのに気が付くと、小さく親指を立てて祝ってくれた。
(それって、家永のおかげ……かな?)
普段の知己ならば、ミスコン優勝に
(何もめでたくない!)
と思う所だが、「おめでとうー!」「先生、おめでとうー!」「あんたが一番だー!」の声がこだまする体育館のお祭りムードに乗せられて、じわじわと嬉しくなってきた。
協力してくれた卿子達の顔を立てることもできたし、何より章には悪いが、これで回りくどい手を使わずとも、敦から空白の一日の話が聞ける。
「……敦、喋ってもらうからな」
と静かに告げた知己に
「はあ?! ふざけんな! たかが一票差なんて……」
真っ赤になって敦は反論した。
「一票差でも勝ちは勝ち……だろ?」
先ほど言った敦の言葉を引用する知己の横で、俊也が
「俺、知ってる。こういうの『一票の格差(※)』って言うんだろ?」
と、章に話しかけたが
「うん。違うから、俊ちゃんはちょっと黙ってて」
と相手にはしてもらえなかった。
(※)一票の格差・・・俊也が「現代社会」で最近聞きかじった言葉。選挙区域での票の価値の差。当選するために、人口の多い所だと一票の価値が下がり、人口が少ない所だと上がる。多分、知られていると思うけど、ググってもらうのは申し訳ないから書きました。
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