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「あ、そだ!」
敦が何か名案を思いついたらしい。
突然、すこぶる悪い笑顔になったかと思ったら
「おい、俊也! ピン球はまだ残っているだろ? 寄こせ」
と俊也に詰め寄った。
「ああ。持ってるけど?」
俊也は、投票係だ。予備のピン球を預かっている。
それを一つ取り出してみせると、敦が攫うように奪った。
「今回のルールでは……」
一呼吸おいて、改めてルールを口にする。
「この会場にいる者すべてに投票権があるんだったよな?」
誰に問われている訳でもないが、周りにいる者はなんとなく首を縦に振った。
「だったら……」
敦は長机の赤い箱の方に向き、
「俺にも投票権はあるはずだーっ!」
と叫びながら、整然と並ぶ赤い箱の隅・空いている一か所に、ぽすっとはめ込んだ。
「……」
知己だけではなく、ステージ上の者たち全員が黙った。
自分の妙案に驚いて声も出ないのだなと思った敦は、
「ふふん。どうだ。これで同点だな」
腰に手をやり、背をのけぞらせて勝利を誇った。
おもむろに知己が
「……俊也。俺にもピン球を」
と言うと
「あいよ」
ドクターにメスを渡すナースのような流麗な動きで、俊也が知己にピン球を渡す。迷わず知己は、今、貰ったばかりのピン球を満タンの青い箱の上にそうっと落ちないように慎重に乗せた。
「……あ!」
愕然とする敦に、
「もしかして、敦ちゃんってヴァカなの?」
章がすこぶる残念そうな視線を向け、容赦なく指摘し続けた。
「敦ちゃんに投票権あるなら先生にもあるでしょ? そりゃ同じことされるよね? ねえ、敦ちゃんってヴァーカなの?」
「むかつく! 巻き舌で言うなー!」
「ヴァカな子ほど可愛いって、本当だね。敦ちゃん、めちゃかわのぐうかわ」
このタイミングで言われても、嫌味にしか聞こえない。
「うぅぅ……、ムカつく、ムカつく、ムカつくーぅ!!」
怒り心頭の敦は、舞台の床をひたすらガンガンと踏みつけた。先ほどのJKの可憐さなどどこにもない。ただのヒステリックな女子だ。
「……(どこが可愛んだよ?)」
と俊也が思っていると
「もー、しょうがないな」
と、章はマイクをオフにして中央の長机に置いた。
「俊ちゃん。僕にもピン球ちょうだいな」
今度は章まで、ピンポン玉をねだってきた。
「はあ? お前、司会だろ? 賞品だろ? 中立じゃなかったのかよ」
度々の催促にうんざりした俊也が言うと、
「敦ちゃんが言うには、会場にいる者すべてに投票権があるんでしょ? だったら、司会の僕にもあるよね」
と章が自分の投票権を主張した。
「ちぇっ」
めんどくさそうに俊也が取り出したピン球をもらうと、章は
「敦ちゃん」
赤い箱に向かった。
「……大好きだよ」
と小さく呟くと、満タンになった赤い箱の上に知己と同じ要領でそっと自分のピン球を置いた。
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