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「なーんだ、なんとなくは分かってたのか」
俊也が片付けの手を止めずに言う。
「分からずにあんなこと言って、煽って炙り出したのかと思った」
「いや、あれは……なんか、ついヤっちゃった……、だけで」
やはり知己の笑顔は張り付いている。いささか眉尻が下がっている所を見ると「ついヤっちゃった」ことは本音だのようだ。
「うわー。ついうっかりでアレ、ヤるう? 下手すれば、敦、臍まげて絶対に口を割らなくなる地雷みたいなもんだったのに」
俊也が片付けの手を止めて、知己を冷やかしだした。章も面白そうに参加する。二人がきゃっきゃと知己を揶揄って楽しそうにするのを、敦だけは以前、口をへの字に結び、この場にいること自体不満そうだ。
「ルールを無視って、そんなに?」
これまでのことを思い出すと冷静でいられなくなって大人げなくも大声を出してしまった。
午後の授業を思い出して恥じる知己に
「ダメに決まっているじゃん! めちゃくちゃ罪は重いよ。ねえ、敦ちゃん」
敦に振りながら章がダメ出しした。
「ふん!」
やはり会話に参加したがらない敦の代わりに
「あんなあからさまな炙り出し作戦、普段の敦なら絶対に乗ってこないのに。珍しく感情的になって、敦が対抗したよな」
俊也が答える。
「あの時……っ!」
敦が我慢できずに
「あんな手口に乗るもんかと思っていたのに、章が、こいつに投げキッスなんかしてるからっ!」
とうとう堰ききって話し始めた。睨む相手は章に変わっている。
(こいつ……?)
知己は自分のことと分からないでいると、横で
「はあ?」
今度は俊也まで
「お前、あの時そんなことしてたの? ふざけ過ぎだろ?」
と章を責めはじめた。
2-3の生徒の大半は知己の方を向いていたので、章の投げキッスに気付いたのは、知己と敦くらいなものだ。
「あはは! だってあの時、先生があまりにも無茶苦茶でおばかさんだなぁと思ったら、つい。おかしかったよねぇ? あはははは!」
章に笑いのスイッチが入ってしまったようだ。
章とは真逆に敦の機嫌は駄々下がりだった。だが、だんまりにも飽きたかのようだ。むぅっとした表情のまま、敦が
「校則に……」
と突然話を切り出した。
(校則……?)
きょとんとして、知己は話に耳を傾けた。
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