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名を捨てて実を取れ
「はぁん、今回も尊み秀吉だったー! 眼福ー! 目に盆と正月がいっぺんに来たー!」
とご機嫌に帰っていく前田の横を
「毎回、ここのミスコン。最後はグダグダで終わるのよねぇ」
体育館では誰よりも気が合うと思われた美羽が、正反対の意見を言いながら体育館を出ていった。
美羽の後ろをやや遅れて歩く、すっかり美羽のSPが当たり前になった門脇に家永がそっと近付き、
「……門脇君は、あのことを知っていたのか?」
と、ぼそりと聞く。
「いや」
あのこと=賞品の章のことである。
「冗談じゃねえ。知ってたら、絶対に先生に投票なんかしなかったつーの」
「同感だ」
「あいつのタスキの文字、深く考えてなかった。『主役』だの『司会』にしか目に入っていなくて『賞品』の意味を分かってなかった。てっきり、またふざけたことしているとばかり思って」
「そう言えば、あいつはあの子に投票していた。と、いうことは知っていたってことだな」
「確かに。相変わらずムカつく奴だ。……なんか変だと思ったんだ」
「しかし、現物支給にも程がある」
高校だから、現物支給。
「この学校、大丈夫か?」
家永は、知己の狐コスを見た時とは別の意味で目頭を押さえた。
+++++
「んー? 結局、どっちが優勝?」
前田が、またサングラスの上から手を筒にしてステージを覗く。
「ツッシー君の悪あがきの後から、よく分かんないですよねぇ」
「……前田君、『悪あがき』って言ってやるな」
「だって、そうでしょ?」
章がマイクをオフにしたので、ステージ上でどんなやり取りがあっているのか、さっぱり会場には伝わっていなかった。
とりあえず、なぜかピン球が次々に当事者たちの手によって増やされていったのだけは分かる。
「……大好きだよ」
と呟いて敦に票を投じた章。
それを、敦は凍り付いたように動けずに見ていた。
「……ふ、ふふふ……っ」
(解凍された途端、笑ってる?)
俊也が訝し気に敦を見つめていると
「ふ、ふふふっ……ふふふふ、ふざけんなよっ!」
敦が叫んだ。
「章、お前と言う奴はいつもそうやってけむに巻きやがって……!」
(まあ、そうなるよな)
これまでの章の言動を考えれば、敦の苦情はもっともだ。まだまだ滔々と溢れ出す予感しかない。
(これは絶対にややこしくなる)
「ちょっと待て。続きは幕を下ろしてからにしろ」
と、知己が止めた。
敦も、章曰く「お臍が359度曲がっている」「難しい年ごろの権化」だ。
「うるさい! 悪徳教師はすっこんでろ!」
八つ当たりに近い形で怒鳴られたが
「いや、本当に。敦、会場がざわつき始めている。収拾つかなくなるぞ」
それでも知己は怯まなかった。
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