名を捨てて実を取れ

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 前田だけでなく、事態が把握しきれずに会場のあちこちでざわざわと声が上がり始めていた。 「とりあえず、一旦、幕にしよっかー」  呑気に言う章に、俊也が 「お前、司会だろ? ちゃんとしめろよ」  とツッコんだ。 「そうだったねー。じゃあ、しめよう」  改めて、章が長机に置いていたマイクを手にする。 「……つーわけで、優勝はこの二人となりました! いや、奇遇ですね! 同じ数だけ票が集まるなんて! はぁい、拍手ぅー!」  強引に締めようとしているのは見え見えだ。  しかも奇跡の同数にしたのは、当事者たちがどんどん都合よく加点していった結果なのだ。 「はあ? じゃあ一体何のためにこれ(頂上決戦)、開催したんだ?」  ズルの応酬で終わった一昨年の二人。  その決着を見に来たのに、このありさま。  当然、ざわつきは収まらないどころかさらに騒ぎ始めた。  仕方なく章は、 「じゃあ、こうしよう! 優勝は平野先生!」  知己の方を指した。すると、慌ててスポットライト係が改めて知己を照らし出した。 「で、もって優勝賞品ゲットは敦ちゃん!」  ぶいっと体を捻って、今度は敦を指す。  打ち合わせになかった章の行動に、またもやスポットライト係が慌てて敦を映し出した。なぜか敦は、仁王を通り越して閻魔大王の顔になっていた。 「……ということで、八旗高校ミスコン頂上決戦はおしまいー! ご来場の方々ありがとうございましたー!」  それっぽくなんとかまとめて、緞帳を閉めさせた。 「……」  幕がしまったのだから、仕方ない。  体育館に集まったものは、渋々と各々の帰路についた。 +++++  幕の外側では撤収作業が始まっていたが、内側では、どうにも険悪なムードが立ち込めていた。  幕が閉まるとすぐに 「何があったんですか?」  舞台袖にいた卿子達が飛び出してきた。  マイクをオフにしていたので、章の呟きはステージ上の集計箱傍に居た者にしか聞こえず、会場の賑やかさで少し距離があった舞台袖の卿子達にまでは聞こえなかったようだ。 (と、言うことは……)  聞こえたのは、近くにいた俊也、敦、そして知己だけ。  公開告白かと思ったら、奇しくもいつものメンバーだ。 (いや、章のことだ)  これも計算尽くかもしれない……と知己は思った。 「撤収終わったら、理科室ででもゆっくり話そう。な、敦」  知己が優しく声をかけると、「ふんっ!」とそっぽ向くものの敦は「嫌だ」とは言わなかった。  知己の言葉になんとなく「何かあったな」と察した卿子達も、それ以上は聞かなかった。
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