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「……何だ? 俊也」
知己が振り向くと、知己の動きに合わせて狐尻尾がぽよんと揺れる。
「……なんでその格好のままなんだ?」
「……色々あり過ぎて、脱ぐの忘れてた」
自分の姿は鏡か何かに映さないと分からない。
教えてあげればいいようなものだが、意外にも目の保養になって、誰も指摘しなかった。むしろ「誰も言うなよ。黙っとけ」という暗黙の了解みたいな雰囲気さえあった。
だから、うっかり知己は狐コスのまま歩き回っていた。
それは敦も同じだ。
ハーフツインテールJKのままだ。
お互い
((あれ? まだ女装解かないんだ……))
と思いつつも、敦は
(悪徳教師め。どうせ脱ぐのを忘れているのだろう。その格好のまま恥を晒し続けるがいい)
と思ってたし、知己の方は
(敦は、よっぽどあの恰好が気に入ったんだなぁ)
ぐらいにしか思っていなかった。
+++++
「……まあ、可愛いからいいか」
と俊也が言うと、瞬間湯沸かし器的にカッとなって
「ふざけんなっ。すぐ外す」
すかさず知己は腰のしっぽを外した。
「似合ってたのに……」
「うるさい」
揶揄われていると判断した知己は、取ったばかりのしっぽを投げつけたが、俊也になんなくキャッチされた。
「……なあ、先生」
もふもふとしっぽを触りながら、俊也が言う。
(そっか。こいつ。モルカーが好きな男だったな……)
「それ、欲しいんならやるぞ」
「違ぇよ」
即答しながらも、俊也は狐しっぽを執拗に撫でまわし、離そうとはしない。
「……俺が欲しいのは、狐しっぽじゃねえ」
(じゃあ、なんだと言うのだ?)
知己は改めて俊也をまじまじと観察した。
俊也は三白眼でつり目。むしろ、俊也の方が狐コスが合いそうだ。
(そっか! カチューシャも付けろと言う意味か)
なぜかしっぽを撫でるばかりで、その先を言おうとしない俊也に、
(そうだよな。狐コスがしたいなんて、普通、言えないよなぁ)
と思った知己は
(そうか、そうか。狐コスをしてみたかったのか。そうだよなぁ、こんな機会でもない限り、狐コスなんてはっちゃけたことできないよなぁ。
よし。卒業前に悔いを残すことないよう俺が手伝うぞー!)
知己は親にこそなっていないが、ここでも無駄な親心を発揮してしまった。
なかなか続きを言えない俊也を気遣って、袂に入れていたカチューシャを取り出すと俊也の頭にそーっと装着した。
すると、突然、俊也はカチューシャを乗せた知己の両手首を掴んだ。
「……俺が欲しいのは……先生、あんただ」
「え?」
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