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(狐コスをしたかったのでは……?)
虚をつかれた知己は、俊也の真正面に立ち、掴まれたまま動けずにいた。
ほぼ同じ高さの身長が災いして、顔を背けることもできない。
「あの、ちょ、俊也……?」
(この馬鹿力……!)
逃げようにも、こんなにがっしり両手首を掴まれていては逃げようがない。
卒業前の2月上旬には登校している生徒自体少ない。しかも、教室授業や自習がメインとあっては、ほぼ管理棟と教室棟で事足りる。誰も特別教室棟に足を向けない。
渡り廊下には早春の風が吹き抜けるだけだった。
「マジで、あんたが欲しいと思った。俺、先生が好きだ。ラノさんじゃなく先生が好きだ。女装してなくても、先生が先生だから好きなんだ」
「お、落ち着け、俊也!」
「言っとくけど、ラノさんを見た後の気の迷いなんかじゃないからな」
さっきのミスコンのお祭り騒ぎに当てられたかと思いきや、そうじゃないと俊也が先手を打ってきた。
「長髪ウィッグも似合うが、白衣で一生懸命おうちでできる化学を教えるあんたが好きだ。章や敦や他の連中に弄られて困ってるあんたも好きだが、さっきみたいにあいつらのこと考えて嬉しそうに笑ってるあんたが一番好きだ」
いつもの俊也と違う。
滔々と思いがあふれ出していた。
「ちょ、痛……っ」
言いながら自然に掴む手に力がこもってしまったのだろう。知己が痛みで声を上げたが、俊也は止まらない。
「先生。さっきの章との約束じゃないけど、あんたに好きな人がいないんなら俺と付き合ってくれないか? 俺、絶対にあんたを悲しませない。俺、あんたに傍に居て欲しい。ずっと俺の傍で笑っててほしい。ずっと俺を見守ってほしいんだ」
「俊也っ……!」
狼狽えて視線を泳がせれば、俊也の顔が近付くのが見えた。慌てて顔を伏せたが、吊られるように腕を引き上げられると、連動して顔も上がった。
「……ゃっ……!」
どこにも逃げ場はない。
思わず知己が小さく悲鳴を上げて、眼を瞑った。
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