ゲーム 開始 8

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「校則に……『特別教室棟などでのたむろ行為の禁止』って書き加えられたの、実は去年なんだ」  ぼそぼそと話す声に張りはなく、聞き逃してしまいそうになる。敦の様子から言って、聞き逃して「もう一回」などと言うと、きっとそのまま口を閉ざしてしまうだろう。 「そんな校則あったんだ」  聞き逃すまいと必死の知己が言うと 「知らなかったのか?」  返事をしない敦の代わりに俊也が言う。 「だって、俺、生徒手帳、持ってないから」 「先生だもんね」  章がフォロー入れると 「ちっ」  敦が舌打ちをした。 「敦ちゃん。腐らずに、続きをどうぞ」  章が話を進めたので、仕方なさそうに敦は続きを話した。 「前の理科担もコミュ障で」 (ってことは、俺コミュ障扱いか)  当たらずとも遠からじ。否定はできない。知己も居心地の悪い職員室に居たくなくて、理科室に籠っているのだから。 「よく理科室に居た。で、俺達も部活とかはかったるくてイヤだけど、章や俊也とは一緒に居たい。それで、放課後にここの屋上とか非常階段とかで、くっちゃべってた」  章も俊也もわずかに笑顔を浮かべて頷く。敦が『一緒に居たい』と言ったのが嬉しいのだろう。三人は不思議な関係に思えたが、大きく括れば『友情』で結ばれているのだろう。 「俺達が特別教室棟非常階段に三人で居たら、急に理科担が怒鳴り込んできた。 『お前ら、たばこ吸ってただろう』  って。 『そんなことしてません』  って言うのに、俺達の話を聞かないで 『ここは人が来ない。それをいいことに、好き勝手しやがって』  ってさ。俺たちはただ適当に飲み物でも飲みながら喋っていただけだよ? それなのにそのまま生徒指導室にまで連れていかれて、怒られた。酷いよな。あいつがコミュ障で理科室に籠っていたいから、特別教室棟に来ている俺たちが邪魔だったんだ。で、たばこ吸ってたってことにでっち上げられた」  できる限り感情を交えず、抑揚なくぼそぼそと話してはいるが、よほど悲しかったのだろう。敦はそこまで言うと、そっと長いまつ毛を伏せた。 「前の理科担がどんな人かは知らないけど、もしかしたら本当に、たばこ吸ってるんじゃとお前らの体のことを心配したんじゃないか?」  同じ教師としての立場で、知己は言ったが 「たばこの吸い殻も灰も落ちてないのに?」  敦が薄笑いを浮かべる。知己の反応を予測していたようだ。
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